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そして高山に戻って、あたしと絵里奈は最終学年の4年生に進級。
評価だけなく治療プログラムまで立案するレポートを作成する8週間の臨床実習を2か所で行い、卒業試験も無事に合格。
国家試験は作業療法学科内で過去問題10年分を分担して解き方の解説ノートを作ったりして、実習以外の勉強ではこの試験勉強はこれまでの人生の中で一番勉強した。
その成果もあってか国家試験も絵里奈、あたしともに無事に合格。
大変な1年だったけれど、岡崎先生と過ごした日々を想い浮かべ、あの日々を乗り越えたんだから諦めちゃダメだと自分に言い聞かせ頑張り続けた。
そんな日々を過ごしていたこともあって、岡崎先生のことを想い浮かべない日なんて今日まで1日もなかった。
多分、作業療法士として従事するこれからも、そして、作業療法士の職務を全うし引退する日までずっとあたしの心の中には岡崎先生という存在は居座り続けるんだろう。
そんなあたしも晴れて大学卒業の日を迎えた。
「真緒、暫く会えなくなるね~」
鮮やかな臙脂色の矢絣模様の、元気な彼女にお似合い袴を着た絵里奈。
「でも次に会えるのは、高山祭の予定。」
『春?秋?』
「春!」
『春って4月じゃん!』
「いいの~。岐阜駅から高速バス乗れば、高山はすぐだって!真緒だって会いたいでしょ~あたしに。」
彼女は、実習で苦労した呼吸器作業療法をもっと勉強したいと、岐阜市内にある大学医学部付属病院に就職することになった。
『まあ、そうだね。ここ数年、高山祭は絵里奈と参加がお決まりだったからね。』
「よし、そうと決まれば、写真撮ろう!真緒、今日の袴、今日の門出の日にマッチした桜模様だしね。似合うよ、真緒!高山祭は毎年あるけど、卒業はもう今日が最後だから~。」
『うん。最後だからいっぱい撮ろう!』
あたしたちは袴姿でスマホと卒業証書を抱え、卒業式看板が設置されている大学校門の前へ向かった。
前を行く多くの卒業生や保護者の波をかき分けるようにあたしたちは足取り軽く前へ進む。
その途中だった。
「神林さん・・・」
ここ半年間で、あたしの傍でよく耳にするようになった低い声が背後から聞こえてきた。
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