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最終話
僕と女は、肩を並べて扉の前に立った。その先にあるものは希望でもなければ、絶望でもない。幸せでもなければ不幸せでもない。きっと、人が思い浮かべる事ができるありとあらゆる感情を超える何かが押し寄せて来る。
これから消えようというのに、僕は穏やかだった。僕の隣には、僕と同じように愛を求めていた人がいる。僕と同じ感情を持っている。僕は、一人じゃない。
一体何人もの人が、ここで愛となったのだろう。死神になれば、分かるのかな。
僕は、隣にいる名前のない女を見て言った。
「今度は、僕達が消えてしまうね」
「そうだね。悲しい?」
「どうだろう。悲しいのかな。でも、愛し合う事を叶えられないまま死んでしまうより、ここで愛になって、愛のために消えるなら、それでいい」
女は微笑み、僕の肩に身を寄せた。僕達は目を閉じた。
──手を伸ばしていた。
ずっと、何かに、誰かに触れようと、伸ばしていた。そうやって生きてきた。
その手を掴んでくれるものの温もりを知らない僕には、手に触れられる感触というものが分からなかった。
今、僕の手には、僕と共に消える女の手が握られている。その手は、どうしようもなく哀しくて、優しくて。
繋いだ手から、光が溢れた。それは僕と彼女の全てだった。僕達の全てと、途方もなく永い間紡がれてきた、この世界で生まれたすべての愛と、僕達は触れた。
すべてが、一つになった。
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