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第1話
随分と若い店主だなと思った。顔はよく見えなかったが、何故か自分と同じ歳頃の男だと分かった。
そこは、結び屋という店だった。金は取らないという。その代わり、結ばれるべき人と結ばれたら、僕は消えるらしい。何の商売だよ、と思った。結婚相談所のようなものでもない。結ばれて消えなければならないなんて、それじゃあ何のために結ばれるのか分からないじゃないか。大体、消えるって、何処へ?
店主に促されて奥の部屋に入ると、小さな机と椅子が並べられていて、そこに女が座っていた。店主と同じく、この女も男と同年代に見えた。女はこちらを見た。女は少し目を見開いた。軽く会釈をして、僕は言った。
「あなたは、ここのお客さんですか?」
僕はここへ迷い込んで来た。行くあてもないまま足を動かしているうちに、この村にやってきた。結び屋は、村の隅の方にある小さな家のようだった。この村の家は何処も灯がついておらず、この店だけに灯があった。宿なら助かると思って訪ねてみたら、結び屋だと言われた。そしてその結び屋のこの一室に、先客の女がいた。
僕は女に興味を持った。女がこの店の客であったとしたも、ここに住んでいる人であったとしても、この村の事も店の事も何も知らない僕にとっては非常に興味深かった。
「いいえ。私はこの村の近くの森の中で倒れていたらしいの。ここの店主さんが、わたしをこの部屋まで運んでくれたんだって。目が覚めて話を聞いてみたら、ここは結び屋だって。私達、きっと同じくらいの歳だよね。気を使わなくていいよ」
そう言って、女は笑った。僕がこの村に来てから出会ったのはここの店主と目の前の女だけである。僕は女に興味を持ちつつも、店主についても気になっていた。店主はいつの間にか、何処かへ行ってしまったようだった。
「じゃあ、君もここの住人じゃないんだね。店主さんとは、他に何か話してないの?」
「他には、特に…。あの人もお若い方だったから年齢を聞きたかったのだけど、女性には聞きづらくて」
「女性? ここの店主さんは、男の人だよね」
「うそ。私が見たのは、私くらいの若い女の人だったよ。顔はよく見えなかったけど、確かに女の人だった」
また分からない事が増えてしまった。僕が知っている店主だと思っていた人以外にも、誰かいたのだろうか。それとも、僕達のどちらかが勘違いをしているのか。それに、二人とも店主の顔がよく見えなかったのは何故だろう。
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