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【01】
夜の山道は暗く冷ややかだった。
相咲星奈[あいざき せな]は
そんな道を平然と進んでいる。
怖くない、と言えば嘘になるが
ヘッドフォンから流れる大音量の音楽のせいか
歩調は全く鈍らなかった。
毎週通ってるから当然か。
広場に到着すると
星奈はウォークマンの音を止め
耳からヘッドフォンを外す。
静寂に包まれた、自分だけの世界。
星奈は
ヘッドフォンをカバンにしまい、目を閉じる。
そして
大きく息を吸うと、ソッと歌い出した。
深夜、山奥の広場で一人歌うのが
星奈の習慣だった。
誰も知らないけど、自分の大好きな歌。
知名度なんてどうでもいい。
どうせ誰かに聴かせる気など毛頭ないのだから。
その時だった、
岩の向こうの誰かと目が合ったのは。
暗くて良く見えないが
歌声を聴かれたのは事実だ。
「ヤバッ!」
“誰か”は慌ててきびすを返し、逃げ出した。
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