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丸眼鏡は咳き込みながら上体を起こし、天を仰ぐ。
「あー、ビックリしたぁ。
だって、歌声聞こえたと思ったらさ、
急に追い掛けられてそのまま押し倒されて」
「押し倒してない、
アンタが勝手にすっ転んだだけ」
星奈は呆れながらため息をついた。
「こんな時間に一人で何してるわけ?」
「それはコッチも聞きたいところだけど……」
「言いたくない。アンタは?」
「右に同じく……」
丸眼鏡は立ち上がると
スカートの汚れをはらった。
星奈はため息をつきながらスマホをしまう。
すると、丸眼鏡が口を開いた。
「……ねえ、一つだけ良い?」
「なに?」
「さっきの歌ってたやつってさ、
ネグレクトの『箱庭』だよね?」
星奈の動きが止まった。
「知ってるの?」
「知ってる!わたし好きなんだぁ、
他の人あんまり知らないから嬉しくてつい…」
星奈自身も同好の志に会ったのは初めてだった。
メジャー・デビューしているものの
知名度が低いアーティストは少なからず存在する。
“ネグレクト”もその一つだ。
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