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「気づかなかったんですか? 亜希良くん」
穂乃果が亜希良を驚きの表情で見る。その視線が痛い。
「学校の外だと思って……油断した。ごめん」
「いえ、いいんですけど珍しいなって思って」
お前しか見てなかったんだよ。なんてとても言えない。
「お兄ちゃん、彼女さんに敬語使わせてる! ナニ様なの? ごめんなさい、うちの兄が態度デカくて」
代わりにお詫びとばかりに頭を下げたそのニット帽の頭に、亜希良は軽くゲンコツを落とした。
「うるせえな。邪魔だからとっとと帰れ」
「いったーい! 暴力反対!」
舞香はぐるりと逃げ回って、穂乃果の肩を掴むように手を置いた。
「あたし、彼女さんとお話がしたい〜! ねえねえ、一緒に観覧車乗りません? うちの兄について語り合いましょうよ!」
「えっ? えっ? それは楽しそうですけど……」
「じゃあ決まりっ」
舞香は嬉しそうに穂乃果の手を引っ張って観覧車へ向かう。
「おい待て、勝手なことをするな!」
舞香だけは、三年前から距離感がおかしいやつだと思っていた。
こちらがどんなにそっけなくしていても、弾丸のように突撃してくる。
今日、穂乃果とデートすることを舞香にだけは知られないように注意していたつもりだが、どうやって知ったのだろうか。
本人に尋ねると、舞香は嬉しそうに口角をあげて「甘いなあ」と言った。
「お兄ちゃん、SNSとか一切しないからなあ。彼女さんのインスタくらいフォローしといた方がいいんじゃない?『今日のデート服コーデどれにしよう?』って投稿にどれくらいいいねついてると思ってるの?」
「まさか……舞香ちゃんは私のインスタのフォロワーさんですかっ?」
「穂乃果。お前──匂わせたな?」
穂乃果は青い顔をして「ごめんなさいっ!」と手を合わせる。
穂乃果自身が匂わせていたら、いくら亜希良が注意していても無駄なことだ。
「もう、彼女さんってばホント癒し系だよね! 最初はお兄ちゃんの学校ってどんなところかな〜って興味持って、通っているっぽい人のこと追いかけていったんだけど、偶然彼女さんのインスタにたどり着いて普通にファンになっちゃった! すっごい可愛いんだもん」
「嬉しいです、ありがとう!」
喜んでいる場合か。
亜希良は深いため息をついた。
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