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2 初デート
遊園地に着いて、真っ先に穂乃果が「あれに乗ってみたいです」と指を差したアトラクションは、結構ハードそうなジェットコースターだった。
亜希良はそういえば……と思い出す。
穂乃果は大人しそうな外見をしているけれど、意外とダンスや陸上が得意な運動系で、肝も根性も据わっている人だった。
穂乃果が乗りたいと言うのならどこへでもついていくし、意地でも悲鳴は上げない。
そう誓ったが、いざ乗りこんでみると考えられない動きの連続で、聞こえてくるのが周りの悲鳴なのか自分の叫びなのかも分からなくなった。
ふと、隣を見ると、穂乃果がケタケタ笑いながら泣いている。
怖いのか、楽しいのか、はっきりしろ。
穂乃果を見ていたら楽しくなってきた。
手を繋いでやるとすごい力で握り返してくる。頑是ない子供が必死で親の手にすがりついてくるようだ。その手は冷たく震えていて、ほんの少ししっとりとしている。
彼女の何もかもが愛しい。
本物になってくれと亜希良の方から言う直前、穂乃果はこの関係を壊すことに怯えて泣いていた。
あの時も子供みたいだと思った。
普段強がっている分、パニックを起こすとぐっと幼くなる。
守りたいと、強く思った。
「おい、大丈夫か。しっかりしろ」
「はあい……」
自分で乗りたいと言ったくせに、降りたらフラフラになっている。その青い顔に口づけたくなる。
「亜希良くんは何ともないんですね……」
少し残念そうな言い方が気になって真意を聞いてみると、穂乃果は可愛い顔で白状した。
「亜希良くん、いつも完璧にかっこいい人だから……ヘロヘロになったところが見てみたかったんです。弱ったところを慰めてみたいというか、そう言うのもキュンとするかなって思って」
「何がキュンだ、バカ」
弱いところなんか見せられるか。
今はまだ、カッコつけたままでいたい。
「でも、一度だけ見ましたよ。亜希良くんのカッコ悪いところ」
穂乃果はふふっと思い出し笑いをした。
「私の家で、キスの特訓をしようとした時……焦って靴のまま家に上がろうとしましたよね」
「余計なことを覚えてんじゃねえよ」
亜希良は思わず声を荒げた。
あれは本当にカッコ悪い思い出だった。穂乃果の頭に入り込んで、そこだけ黒板消しのように擦って消したいくらい。
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