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舞香は本当に同じ観覧車に乗り込んできた。
そして、亜希良の正面に女子が二人で腕を組んで座るというとてつもなく奇妙な空間が出来上がった。
「ほのちゃん、可愛いなあ。あ、ほのちゃんって呼んでいい? 実物の方がずっと可愛い。お兄ちゃんが羨ましい」
舞香は穂乃果の手をずっとベタベタ触っている。
それは亜希良がやろうと思っていたことなのだが。
「あの……舞香さんは、亜希良くんの妹さん……ですよね。おうちでの亜希良くんってどんな感じですか?」
「マイでいいよ。お兄ちゃんはね、お父さんやお母さんには礼儀正しくて、おとなしくて、借りてきた猫みたいな感じ。で、あたしには冷たい感じー」
「余計なことを言うな」
「ほらね、冷たいでしょ? いくら血が繋がってないからって酷くない?」
「えっ」
穂乃果はドキッとしたような顔をしている。
「余計なことを言うなって言ってるだろ」
「なによ、本当のことじゃん」
血が繋がっていないというワードに穂乃果が動揺していることは間違いなかった。
それもそうかと思う。
突然血の繋がらない妹が現れるなんて、まるで少女漫画かライトノベルの世界だ。しかも使い古されたパターンに入ると思う。
そういう話ではたいてい兄妹に恋愛フラグが立つ。
現実ではフラグなどないにしろ、歳が近くてほとんど他人のような妹と同居しているという事実を彼氏に隠されていたことは、穂乃果にとって面白くないことに違いない。
隠すつもりはなかったのだが、結果的にはそう思われても仕方がない。
なんだか浮気が見つかったクズ男のような気分になってきた。
「心配しなくてもいいからね、ほのちゃん。お兄ちゃんとあたしはぜーんぜんそういう雰囲気ないから。むしろ避けられてるから。一緒に暮らし始めて三年経つけど、いまだにお兄ちゃんは謎が多くて。だからほのちゃんとデートしてるところが見てみたかったんだよね。うちにいる時とどう違うのか、知りたくて」
「それで……どうだった?」
穂乃果は期待に目を輝かせる。
「お兄ちゃん、ほのちゃんにメロメロだね」
……他人にはそんなふうに見えるのか。
亜希良は耳まで熱くなってきた。
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