騒がしい年明け

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   緊張のババ抜きの〆は、やはり蓮と花だ。 「誰だよ、この対戦カード組んだの」 「呪われてるんじゃないか?」  正月から物騒な言葉が飛び出す。  蓮はババを含め3枚。花は2枚。ジェイが蓮のカードを見に行こうとして、すんでのところで田中に止められた。 「なんで見に行っちゃいけないの!?」 「お前、顔に出るだろう!」  2人の動きは滑らかだ。花が蓮からババを取り、蓮が花からババを取る。 「この2人は仲良しさんだね」 「まったくだ!」  そんな声も出て来る。その間に女性陣はテーブルの上を片付け初め、夕食の用意だ。その手際の良さに佐藤さんも感嘆する。どれだけこんなことを繰り返してきたのか。 (年季が入ってる)  歓声が上がった。ついに決着がついたのだ。 「勝者、花!」  悔しそうな蓮の顔。しかし、これは運ゲーだ。そう悔しがることも無いのに、と佐藤さんは可笑しくなってくる。 (大の大人たちがババ抜きであれだけ真剣に……)  ふっと思う。今自分はこの中の1人になっていると。みんなと共にはらはらしたり、ドキドキしたり。 「佐藤さん、疲れたでしょ」  浜田がにこっと笑いかけてきた。佐藤さんも笑顔で返す。 「大変なババ抜きでした!」 「あれ、下手すると佐藤さんが残ってましたよね」  ぶるっと震える。自分が蓮と、或いは花と1体1だなどと、想像もできない。 「いや、危なかった! ほっとしてますよ、本当に」  中山もそばに来る。 「すみませんね、あの2人、すぐ熱くなっちゃうんです」 「あの……普段から仲が悪いとか……?」  中山と浜田が顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。 「そうか、そう見えなくもないか……あの2人はうんと仲良しですよ、まるで兄弟みたいに。ただどっちも勝負ごとになるとバカみたいに熱くなるだけです」 「そうそう! 七並べでも『あっち向いてほい!』でも血管切れるんじゃないかってほど!」  それを聞いて佐藤さんは安心した。やはりこの仲間たちにケンカは似合わない。  わいわい騒いでいた連中が、今度は台所から料理を運び始めた。佐藤さんも釣られて台所に行くと当たり前のようにお新香を2皿持たされた。 「適当に置いてくださいな」  笑顔の可愛い目のくりっとした女性に頼まれてテーブルに持っていく。すでにあちこちに置いてあるからそれと同じくらいの間隔だ。  もう一度台所に行くとお箸を持たされる。やることがある。お客さんじゃない。遠慮も無い。  ジャーもテーブルのそばにいくつか置かれ、全員にご飯が行き渡る。蓮が大きな声で「いただきます!」と言うと、全員がそれに倣って「いただきます!」と声をあげた。  この光景が嬉しい。ここまで心を開いた新年会など、それを言ったら食事会や集まりなど経験がない。 「私、……次も呼んでもらえますかね」  隣にいるリオに呟くように聞く。 「もちろんですよ! お声かけ、蓮ちゃんとジェイがすると思います。良かったら是非来てください!」 「ありがとう……ありがとう」  もう涙を流すことも無く、ただ笑顔がこぼれている佐藤さんだった。  
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