427人が本棚に入れています
本棚に追加
緊張のババ抜きの〆は、やはり蓮と花だ。
「誰だよ、この対戦カード組んだの」
「呪われてるんじゃないか?」
正月から物騒な言葉が飛び出す。
蓮はババを含め3枚。花は2枚。ジェイが蓮のカードを見に行こうとして、すんでのところで田中に止められた。
「なんで見に行っちゃいけないの!?」
「お前、顔に出るだろう!」
2人の動きは滑らかだ。花が蓮からババを取り、蓮が花からババを取る。
「この2人は仲良しさんだね」
「まったくだ!」
そんな声も出て来る。その間に女性陣はテーブルの上を片付け初め、夕食の用意だ。その手際の良さに佐藤さんも感嘆する。どれだけこんなことを繰り返してきたのか。
(年季が入ってる)
歓声が上がった。ついに決着がついたのだ。
「勝者、花!」
悔しそうな蓮の顔。しかし、これは運ゲーだ。そう悔しがることも無いのに、と佐藤さんは可笑しくなってくる。
(大の大人たちがババ抜きであれだけ真剣に……)
ふっと思う。今自分はこの中の1人になっていると。みんなと共にはらはらしたり、ドキドキしたり。
「佐藤さん、疲れたでしょ」
浜田がにこっと笑いかけてきた。佐藤さんも笑顔で返す。
「大変なババ抜きでした!」
「あれ、下手すると佐藤さんが残ってましたよね」
ぶるっと震える。自分が蓮と、或いは花と1体1だなどと、想像もできない。
「いや、危なかった! ほっとしてますよ、本当に」
中山もそばに来る。
「すみませんね、あの2人、すぐ熱くなっちゃうんです」
「あの……普段から仲が悪いとか……?」
中山と浜田が顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。
「そうか、そう見えなくもないか……あの2人はうんと仲良しですよ、まるで兄弟みたいに。ただどっちも勝負ごとになるとバカみたいに熱くなるだけです」
「そうそう! 七並べでも『あっち向いてほい!』でも血管切れるんじゃないかってほど!」
それを聞いて佐藤さんは安心した。やはりこの仲間たちにケンカは似合わない。
わいわい騒いでいた連中が、今度は台所から料理を運び始めた。佐藤さんも釣られて台所に行くと当たり前のようにお新香を2皿持たされた。
「適当に置いてくださいな」
笑顔の可愛い目のくりっとした女性に頼まれてテーブルに持っていく。すでにあちこちに置いてあるからそれと同じくらいの間隔だ。
もう一度台所に行くとお箸を持たされる。やることがある。お客さんじゃない。遠慮も無い。
ジャーもテーブルのそばにいくつか置かれ、全員にご飯が行き渡る。蓮が大きな声で「いただきます!」と言うと、全員がそれに倣って「いただきます!」と声をあげた。
この光景が嬉しい。ここまで心を開いた新年会など、それを言ったら食事会や集まりなど経験がない。
「私、……次も呼んでもらえますかね」
隣にいるリオに呟くように聞く。
「もちろんですよ! お声かけ、蓮ちゃんとジェイがすると思います。良かったら是非来てください!」
「ありがとう……ありがとう」
もう涙を流すことも無く、ただ笑顔がこぼれている佐藤さんだった。
最初のコメントを投稿しよう!