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新春の寿ぎ
――ぴんぽーん
「こんな時間に誰だ?」
今度玄関に出て行ったのは石尾。こういうのも佐藤さんには新鮮だ。いる人間が適当に玄関に出迎えに行く。
「はい」
「宗田です!」
「宗田?」
玄関を開ける音。その時には花が立ち上がっていた。
「花月くん! 和愛ちゃん! おーい、若夫婦が来たよ!」
花が玄関に出る。
「どうした?」
「どうしたって、明けましておめでとうございます。今年も……なんで父さんに挨拶すんのさ。昨日挨拶したろ?」
「入れ入れ、家主は座敷だ」
若夫婦が現れて、広間は大きな拍手の渦に包まれた。花月がその場で正座して手を突いて声を張る。和愛はそのちょっと後ろだ。
「明けましておめでとうございます! 今年もどうぞよろしくお願いいたします!」
「よろしくするぞー」
「よろしくな」
そんな声が重なる。隣にいるリオが佐藤さんに若い2人の説明をした。
「花さんと哲平さんの! 18歳って、まだ学生さんじゃないか!」
「ええ。そうなんですよ」
佐藤さんは目をぱちくりさせている。
「それで、皆さんにご報告があります!」
花月にはみんながいることが有難い。個別に報告しなくて済む。
「この度、第一子が生まれることになりました」
しーんと静まる広間。立ち上がってしまった花と哲平。哲平の口が、それを言うなら花の口もあんぐりとしたまま時が止まったようだ。
「いつ? いつ生まれるの?」
後ろから来た真理恵が和愛の隣にぺたんと座った。
「あの、3月ごろに」
ちょっと小さな和愛の声。
「花くん! なにやってるの? お祖父ちゃんになるんだよ!」
「お祖父ちゃん……」
「お、俺も?」
「そうよ、哲平さんもお祖父ちゃん!」
一斉に湧いた。今日はもうお酒はダメ、と言われたけれど祝杯をあげないわけにはいかない。
女性陣もこれには同意で、すぐにグラスが配られた。ビールならまだ1ケースはある。
わけが分からないという哲平と花を置いて、祝杯の音頭は蓮だ。
「めでたい! こんなにいい正月があるか!? 哲平、花、しっかりしろよ。ここのメンバーで最初に祖父ぃになるのはお前たちだ。おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
背中をバンバンと叩かれ、ようやく哲平はこの世に戻って来た。花もみんなの騒ぎで呼吸が再開する。
「お前ら、いつ分かったんだ、今頃になって言うなんて!」
花はちょっとカチンと来ている。
「夕べ病院に連れてったんだよ、あんまり具合悪そうだから」
「まさか赤ちゃんが出来てるなんて思わなかったの。つわりも無かったし、そんなにお腹も出てなくって」
「そんなのおかしいだろっ」
今度は哲平だ。もう和愛は泣きそうな顔になっている。事を収めたのはありさ。
「あのね、女性って不思議な肉体をしているの。生まれるまで何も分からなかったって言う女性だっているのよ。あんたら、何を怒ってんの? 和愛ちゃんが可哀そうじゃないの!」
花月が和愛の肩を抱いている。スカートをぎゅっと握って下を向いている和愛の肩を、反対側から真理恵が抱いていた。
「おめでとう、和愛ちゃん。そっか、私お祖母ちゃんになるのね? ……わ、こうしてらんないわ! 花月、宗田の本家には伝えたの?」
「まだ。出来れば父さんと母さんに一緒にいて欲しくって」
「明日は時間が取れるわ。ね、花くん! いつまでそんな顔してるの? しっかりしてよ、お祖父ちゃん!」
「お、おれ……事態が飲み込めない」
「おれ、も」
「花さんも哲平さんもお祖父さんになったんだね! 3月に孫が生まれるんだね!」
ダイレクトなジェイの言葉でゆっくりと2人が花月と和愛を見る。哲平はどん! と膝を突いた。和愛の腹部を撫でる。
「あかちゃん?」
「うん。父ちゃん、怒ってるの?」
「あかちゃん…… 千枝っ、赤ちゃんだ! 俺、祖父ちゃんになったぞ!」
花もようやく座った。
「花月、お前父親か」
「うん。俺も『お父さん』って呼ばせるよ」
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