新春の寿ぎ

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「すみません、すっかりつき合わせちゃって」  帰り道を蓮が送って行く。 「こんなに楽しい時間を過ごしたことなど無いよ。おめでたい席にまで立ち会わせてもらって。一ノ瀬さんがまた来ていいと言ってくださった」 「お声、かけますよ。都合が良かったらどんどん来てください。垣根無いんです。人間が入れ替わったりしますが、基本的には今日のメンバーに近いと思いますよ。みんな人が好きなんです」 「人が好き……いいねぇ、そんな風に思えるなんて」 「今日の佐藤さんも同じ顔してたよ。俺、すごく嬉しかった!」  多分照れたような顔をしているのだろうが、あいにく暗くてその顔は見えない。  佐藤さんの家の前だ。 「今日はご馳走にもなったし、楽しい時間を過ごさせてもらった。もうすっかり体調も良くなったから、明日からは食事の世話は要らないよ。今日までありがとう」 「大丈夫なんですか? 遠慮じゃなくて」 「大丈夫。遠慮はしないよ。今日のみんなも遠慮など無かったからね」  蓮とジェイが手を差し出す。その手を交互にしっかりと佐藤さんは握った。 「今年もよろしくお願いします」 「俺も! よろしくお願いします!」  改めての2人の挨拶だ。 「こちらこそ! 楽しい一日だったよ」 「佐藤さん、喜んでたね」 「お前が縁を結んだんだ。あの時食事の世話をしようって言ってくれたから人の輪が広がった。さて、今度は次世代のちびっ子が増えるのか」 「どっちだろうね! 男の子と女の子!」 「本人たちが知りたくないんだ、生まれるのを待とう」 「うん!」  今日はどうやらどんちゃん騒ぎになりそうだ。主役の2人は帰ると言うのに、めでたい酒の肴が出来たと喜んでいる。  花と真理恵夫婦、哲平は花月たちが帰るのをこれ幸いと車に乗せてもらう気だ。親子水入らずにさせてやるべきだと蓮も思っている。 「それにしても何人残るんだ?」  夫婦者は帰るだろう。例えば翔と優香。池沢とありさ。広岡と莉々。浜田と陽子。石尾は帰る。だとすれば飲み崩れるのはいつものメンバーか。田中も最近じゃ気にせず泊っていく。その点は中山も同じだ。あの固かった中山もすっかり柔らかくなった。後は尾高とリオ。 「ま、4人くらいならいないのと同じか」  酒癖の悪くない連中ばかりだ。朝起きればすんなりと帰っていくだろう。  家に着くのを帰宅組は待っていたらしい。まだ飲み足りないと言うのを、奥方に尻を叩かれてコートを手に持っている。てんでに挨拶を交わし、玄関を出て行った。最後になったのが、宗田、宇野両家。 「じゃ、また来るよ」  哲平が手を出す。その手を掴んだ。 「祖父ちゃんだな。早かったな、来年の紅梅にはもう一歳だ」 「ちょっとばかしね。まだ実感湧かないよ、俺が祖父ちゃんだなんてさ」 「だろうな」 「俺も! 勝手にジジババにしやがって」  和愛が恥ずかしそうに下を向く。 「大学、大丈夫か?」 「はい。体は楽だし。バイトのシフトも花月がなるべく同じにしてくれるって」 「バイト、続けるのか!」 「出来るだけ。無理はしないから」  浜田がいたらなんと言うだろう。先に帰って良かったと思う。 「さっき俺もやめろって言ったんだけど」  花も心配そうに言う。 「花月、しっかり見とくんだぞ。無理はさせるな、本人が無理だと思ってなくても」 「はい。気をつけます」 「休まないことがいいことじゃないんだよ。間違えちゃダメだよ」  ジェイも真剣な顔だ。和愛は真面目だから心配なのだ。 「……そうね、そこ間違えないようにする。ありがとう、ジェイくん」  運転は花月だ。何度も「気をつけて」の言葉が行き交い、「おやすみなさい」と車が出て行った。  
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