熱き親友

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  「どうだった?」 「単なる勘違いだ。人の離婚話を自分のことだと聞き違えたんだよ。あいつらしいと言えばあいつらしいんだが迷惑な話だ」  もう3時半だ。すっかり目が覚めてしまった。自分はいいが、ジェイにはきちんと睡眠を取らせなくちゃならない。 (薬を飲ませるにしても変な時間だよな……)  考えてジェイを引き寄せた。 「れ、みんないるのに」 「いいって。どうせ酒でぐっすりだ。秘め初めしよう」  本当に『秘め』だと思う。他人のいるところでこっそりと今年最初のセックスをするのかと思うと、ちょっと妙な興奮が湧いてくる。 「ね、お願い、他の日にして」 「お前の言うのは尤もなことだが全部終わってから聞くことにする」  もう自分もそんな気になっている。抱き寄せて口づけを、と思った瞬間。 「トイレー、どこだっけー」  尾高だ。寝ぼけた声がしてさっと襖が開いた。慌ててジェイに布団をかぶせて、蓮は腹立たし気に尾高を回れ右させてトイレに連れて行った。 「ここだ、バカ! 布団に戻れるだろうな!」 「だいじょうぶだいじょうぶ……だいじょうぶ……」  とても大丈夫だとは思えない。バカバカしいが、蓮は尾高が用を足すのを外で待った。  出てきた尾高はすぐそこで横になってしまいそうなほど足がもつれている。それを部屋に担いでいった。決して優しくはない下ろし方で尾高を横にして布団をかぶせる。 「今日はこんなことばかりだ! 花は正しい! 今度から酔いつぶれたら外に叩き出す!」  ブツブツ呟きながら部屋に戻ると、ジェイは健康的な寝息を立てていた。 「なに怒ってんですか」  朝10時半。全員おじやだ。いろいろ作ってやるつもりだったが面倒になった。口も利かずにぞんざいに丼に注いでテーブルに置く。  中山はまだ食べられない。田中は薬を飲んでようやく落ち着いたところだ。尾高とリオは奥方への言い訳を考えつつ、時計を気にしておじやをかき込んでいる。きっと食べ終わったらすぐに帰るだろう。 (中山は仕方ない、田中は追い返そう)  そんな意地悪なことを考えている時に奥から大声が聞こえた。 「ここはどこだ!」 「誰?」  みんなの箸が止まる。 「あのバカ……」  立ち上がる間もなくズカズカという足音が聞こえて襖が開いた。 「河野! どうしてお前がここに?」  蓮は大きくため息をついた。 「ここが俺の家だからだ」  リオがぶっと吹き出した。 「バカ! 吹き出すな!」  そう言う尾高の声も笑っている。 「坂崎さん、あんたいつ来たんですか」  田中の尤もな質問には答えず、相変わらずのデカい声が響く。 「どうして俺がここにいるんだ!?」 「お前が来たからだろう」  みんな食べるのを放棄したように丼をテーブルに置いた。また吹き出しちゃ困る。 「坂崎さん、頭痛くない? お薬持ってこようか?」 「ジェイ……君はいつも優しいな。いや、薬は要らないよ。ありがとう」  坂崎はジェイに礼儀正しい。蓮が入院した時にバレンタインのチョコを持って行って突っ返されて以来、ジェイに対しては礼儀を忘れずにいる。 「大丈夫だ。こいつは大滝さんと飲み比べできるほど酒に強いんだから。けどな、まずシャワー浴びて来いよ。酒臭くて敵わん」 「河野、俺は」 「話は後。先にシャワー浴びて来い」  ジェイがバスルームに案内する。着替えは蓮の物を用意した。多少坂崎の方が体格がいいが、そう困らないだろう。 「どうしたんだ、坂崎は」  尾高が聞いてくる。 「真夜中に突然来たんだ。飲み潰れる寸前にここに辿り着いたって感じだった」 「だって1月3日なのに」 「その1月3日に俺んとこで酔い潰れたお前に言われたくないな」 「……すまん」  食事が終わると尾高とリオは2人して帰って行った。田中を、と考えて思い直した。常識派の田中がいた方が話がスムースに運ぶような気がして。 「俺、帰りますよ」 「急ぎか?」 「そんなことないけど」 「じゃ、悪いがいてくれ。あいつの話を一緒に聞いてくれないか?」 「えええ、厄介ごとに巻き込まれんのは御免なんですが」 「それを言うなら俺もだ」 「だって同期だし。仲いいし」 「それはアイツの一方的な思い込みだ!」 「片思いか」  他人事だと思って田中は笑っている。  
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