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「そんなわけ」
「ああ、父さん。俺に誤魔化さないでよ。父さんの見栄っ張りはよく知ってるんだから。悪い意味じゃなくってね。だから仕事でも手を抜かないし、家庭でもカッコいい父さんのままでいてくれる。けど、それって『お祖父ちゃん』になることとは相反するもんなんでしょ?」
(身もふたもない……)
その通りだ。花月は外っ側を全部取っ払って核心を突いた。花は片手で髪をかき上げた。
「参ったな……お前の言う通りだよ……俺カッコ悪いな、ジタバタして」
「ううん。ごめんね、こんなに早くって」
ハッと花月を見た。こんなことを言わせる自分を恥じる。
「謝るな、花月。お前は何も悪いことなんてしてない。本当だ、謝っちゃダメだ。こんなにいいことが起きたってのに、俺が我がままなんだ」
「父さん……」
「謝んなくちゃならないのは俺の方だ。お前たちにイヤな思いをさせるなんてどうかしてる。向こうに行くよ。先に行っててくれないか?」
「うん。……ありがとう、待ってる」
花月が出て行って(俺はバカだなぁ)と考えた。世の中には子どもや孫が欲しくても持てない夫婦だっている。哲平のように、孫が出来たことを飛び上がって喜ぶのが自然な姿なのだ。
――こんこん
またノックだ。
「はい」
「私」
すぐにドアを開けた。真理恵がまるで忍び混むように入って来る。ちょっと背を伸ばして花の首に両手を回した。
「マリエ?」
「こら、私の花くん。だめだぞ、一人で落ち込んじゃ」
「別に落ち込んでなんか」
「なんで花くんがリビングを出てったかなんてお見通しなんだからね。あのね、花月はいいと思うの。自分のお父さんがどんな風に考える人か分かってるから。でも和愛ちゃんは可哀そうだよ。私たちが大人にならないと」
花はぎゅっと真理恵を抱きしめた。
「その通りだね。俺がガキだったよ。さっき花月と話してそう思った。花月と花音が生まれた時、父さんも母さんもただ喜んでくれたよね……今になってそれを思い出したんだ」
真理恵に口づける。
「ん。もう大丈夫」
「じゃ、なんて呼んでもらう? お祖父ちゃん? じいじ?」
「マリエは?」
「あのね、真理ばぁがいいの。千枝さんがいたらきっと千枝ばぁだったと思う。だから」
確かに千枝ならそう呼ばせそうな気がする。そう思うと(哲じいか?)と考えて(いや、違う)と思った。哲平はストレートに『じぃじ』か『祖父ちゃん』だろう。
「マリエが真理ばぁなら……」
「花くんは?」
「しょうがない! 花じぃでいい!」
「え、ほんとに?」
「ホント。決めた、花じぃだ。向こうに行こう」
(花じぃだ、花じぃ)
人が自分のことを『花父』と呼んでいるのを知っている。だからこれでいいのだと思う。
「あの、」
和愛が立ち上がろうとした。
「座って、和愛。向こうでいろいろ考えてきた。俺は『花じぃ』にする」
「え、花じぃ?」
和愛は花月と顔を見合わせた。ぷっと吹き出す。哲平が笑い出した。
「そう来るとは思わなかった! そうか、花じぃか。『はなさかじいさん』じゃないんだな?」
「哲平さん! それ、私が怒るから!」
真理恵が怒った顔をした。花が両親を見るとホッとした顔をしている。
(ホント、バカだ。こんなことでみんなを不安にさせるなんて)
「どっかの誰かたちは俺のことを『花父』って呼んでるだろ? だから『花じぃ』でいい!」
和愛と花月の顔が明るくなった。
(俺、偽物の見栄っ張りになるとこだった)
そう花は考えたのだった。
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