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次の日、花は蓮の家に訪れた。ちょっと話をしたかった、自分の愚かさをちゃんと整理したくて。
「そうか、『花じぃ』か」
蓮は笑った。なぜかジェイが少し赤くなっている。
「それでいいの? 花さん」
「いいんだよ。俺さ、ちょっと外聞を気にしたんだ、バカだから」
「花さんはバカなんかじゃないよ!」
「さんきゅ。お前はいいヤツだからそう思ってくれるんだよ」
「蓮は? 蓮だって花さんのこと、バカだって思わないでしょ?」
「そうだな、昨日はバカだったってことじゃないか?」
「蓮!」
「けどちゃんと思い直した。つまり、進歩したってことだ」
「まさかさ、自分が『お祖父さん』ってもんになるとは思ってもいなかったんだよね、花月たちに子どもが生まれるってことは理解出来てたのに」
「分かるよ、それ」
「え、分かるの?」
「俺も同じ思いをした、やっぱり花月が原因だけど」
それは初耳だ。ジェイだって聞いたことが無い。
「いきなりだったから衝撃だったな、あれは。覚えてないだろうが花月にデカいプラモデル買って行った時のことだ。小学校2、3年の頃かな」
「何があったの? 花月が失礼なこと言った?」
蓮は笑い出した。
「そりゃもう! 凄く失礼だったぞ。あいつ、俺に面と向かって『おじさん』って言ったんだ」
「おじさん」
今度は花が笑い出した。自分も「花おじさん」と言われるたびに「おにいさん」と呼び直させていたものだ。ジェイは言われたことが無い。ずっと『ジェイくん』のままだ、今に至るまで。
「あ、でも」
そこで思い出した。花のすげない言葉だ。
「花さん、花音ちゃんに俺のこと『ジェイおじさんって呼びなさい』って言った!」
「そうだったか?」
「そうだよ! 俺も傷ついたんだからね!」
蓮と花が同時に笑った。
「俺たちは大人の階段を上るのが下手だってことだ。女性は結構上手く折り合いをつけて上っていくが、俺たちは必死に足掻いてる。哲平は足掻かないな」
「最初っから自分でおじちゃんって言ってたしね。その辺哲平さんは頭が柔軟なんだ。哲平ちゃんとか言ってさ」
「そうだな。ああいう風になりたいもんだ」
花も、哲平の受け入れ幅の広さに今さらながらに気づかされる。
「俺、ダメだなぁ……気がつくと見栄を張ってるんだ。花月にさ、仕事でも家庭でもカッコいいとか言われたけどさ、その中で縮こまってるような気がした」
蓮は花のスタンスが好きだ。真っ直ぐ、悪いものは悪いと認める。哲平とはベクトルの違う受け入れ幅があるのだと。
「お前はいいヤツだよ。な、ジェイ」
ジェイは大きく首を振った。
「そうだよ! 花さんはいつだってなんだってカッコいいんだから! かづくんの言う通りだと思う!」
花が『来い来い』をするからそばに行く。とたんに捉まって髪をわしゃわしゃされた。
「なにすんの!?」
「俺がカッコいいんだろ? お前は可愛いってこと」
「お、おれ、かわいくないし!」
ジェイは台所に逃げて行った。
「あいつ、年とってもあのまんまなのかな……」
それには二つの意味が含まれている。変化しない、と言う意味と、成長できないと言う意味と。
蓮はふっと小さく笑った。
「いいさ、どっちでも。俺は受け入れていくんだから」
「俺もだよ、気持ち、一緒だから」
蓮に常備菜だの近所からの差し入れのお裾分けだのをもらって車に乗った。窓から手を出してひらりと振る。窓を閉めてロックを小さく流した。
(ちょっと違う)
曲を変える。クラシックを流して落ち着いた。
(名前、なんにするのかな)
そんなことを考えた。
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