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最初に堂本夫妻が到着し、次に宇野本家の夫妻がやってきた。あれこれと和愛を気遣って、「安産のお守りはいくつあっても邪魔にはならないから」と変な理屈をつけて彦介が宇野本家の人数分お守りを置いていく。用意周到な勝子は、その全部を入れるガーゼの袋をちゃんと作っておいてくれた。
「ガーゼなら風通しが良くて神さまも呼吸が楽だろうからね。こっちも気遣ってあげてるんだから、神さまにもしっかり働いてもらわなくちゃ」
勝子らしい口上に花月や真理恵たちも笑ったが、和愛は苦しそうに笑うのを我慢している。勝子は和愛の肩を撫でた。
「緊張しないんだよ。笑っていれば赤ちゃんもにっこりと出て来てくれる。酸素をたっぷり吸いなさい」
そのお陰で和愛も安産祈願の袋入りを胸に大笑いをしてしまった。
ひとまず堂本夫妻は宇野本家に泊ることになった。入れ違いに茅平の家から時恵が来た。
「父さんは?」
真理恵が聞く。
「今来たって男なんて邪魔になるだけだから置いてきたわよ。ほら、おにぎり食べなさい。和愛ちゃんは食事出たんでしょ? 花月はしっかり食べとかないと」
「ありがとう!」
何しろ、曾祖父母の数が多い。まさなり、ゆめ夫妻。堂本夫妻、宇野本家、茅平夫妻。総勢8名だ。生まれてからの記念写真は、身内を集めればさぞ大人数となるだろう。
次に駆けつけてきたのが、花と哲平。
「仕事はどうしたの?」
和愛が聞く。この時期に9時前に父の顔を見ることなどまず無いからだ。
「そんなもん! お前の方が大事に決まってるじゃないか! 会社なんて俺がいなくたって機能するんだ!」
花が呆れて言う。
「困るよ、次期副社長がそれじゃ」
「お前だけに孫見せて堪るか」
和愛が笑う。
「父ちゃん、まだ早いって。夜中過ぎなんだって言ってたよ」
「じゃ、産まれるまでここにいる」
「あ、それだめなんだ。俺も風花が生まれる時に病院から追い返されたから」
「なんだよ、それ!」
騒がしいことこの上ない。まさなりさんの配慮で個室となっているからいいが、やってきた看護師さんに「もう少し静かに」とたしなめられた。
「すみません、静かにさせます」
花月が頭を下げて、未来の祖父たちをじろっと睨む。
「花月、お前も帰るのか? 立ち合いだろ?」
ちょっと声を落とした花が聞く。
「いったん帰ることになりそうなんだ。近くなったら連絡が来るけど」
「じゃ、ウチに来なさい。帰ったって1人で熊みたいにうろついてるだけでしょ?」
「うぅん……」
和愛が花月の腕に手を載せる。
「お義母さんの言う通りにして。私も心配になっちゃうよ」
「分かったよ、和愛がそう言うなら」
哲平も宗田家で夜を明かす。人数が多い方が心強いというものだ。
「和愛ちゃんは寂しくない? 個室じゃない方が良かったかな」
「父さんが余計なことするから」
花が怒ったような声で言う。
「ううん、大丈夫。看護師さんたちも出たり入ったりするし。お腹に味方がいるから1人じゃないもん」
哲平が急に涙をこぼした。
「父ちゃん?」
「ごめん、……お前が生まれた時を思い出して……俺さ、帰ってくださいって言われて駐車場の車の中で夜を明かしたんだ。結局生まれたのは昼近かったけど。そうなんだよなぁ、そばにいさせてもらえないんだよなぁ……」
「哲平さんがそんな気弱なとこ見せてどうすんのさ! 遅くても明日には祖父ちゃんになるんだよ、しっかりしなくちゃ!」
「お義父さん、俺、しっかり立ち会うから。和愛のこと、任せてよ」
「分かってるよ、立ち会うの、俺じゃないんだよなぁ」
思わず和愛は哲平の手を叩いた。
「変なこと言わないでよ!」
「あ、そうか。ごめん」
花月が声を上げて笑った。
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