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そのままの流れで一同はまさなりさんの家に集まった。ここで祝宴だ。
「宇野さん、どうぞ乾杯の音頭を」
まさなりさんに名指しされて彦助は真っ赤になってしまった。
「父ちゃん! 頑張って!」
勝子が小さく応援する。
「ほ、本日はまことにめでたく、このような席を設けてくださった宗田さんに感謝いたします」
哲平も緊張して聞いている。彦助がこんなあいさつをするのを聞くのは末の妹、茉莉の結婚式以来だ。自分と違って舌を噛みそうな父を心配している。
「まだ名も無い幼子ですが、こうやってジジババがたくさんいます。みんなで育てていく気持ちで応援していきましょう! 若い両親もなにかと失敗をすることでしょうが、温かい気持ちで見守っていきたいと思います。花月くん! 私たちを当てにしてくれ! では、若い宗田一家のこれからの発展を祈念いたしまして、乾杯!」
「乾杯!」
(すげぇ、父ちゃん!)
哲平は感動していた。やる時にはやる! これが宇野彦介だと。勝子も同じだ。
(カッコイイよ、父ちゃん!)
誇らしい気持ちでいっぱいだ。肝心の彦助は、というと……
(なにを言ったんだろうか……妙なことを口走ってはおらんだろうか)
と、頭の中が真っ白なままだった。
花月がなにかをまさなりさんに囁いた。「おお!」とまさなりさんが喜びの声を上げる。
「みなさん! 花月からご報告があります。誕生したプリンセスの名前が決まったようです!」
みんながどよめく。
「知ってたか?」
哲平が花に聞いた。
「いや。多分さっき病院を出る寸前に2人で決めたんだよ」
花月がまさなりさんの横に立った。
「ご報告です! 娘の名前を和愛と一緒に決めました。『花の枝』と書いて、『かえ』と読みます。俺の花と、和愛のお母さんの『千枝』の枝をもらいました。これから先、みなさんになにかと手助けをお願いすることがあると思います。俺たち夫婦ともども、花枝のことをどうぞよろしくお願いします!」
宗田家の若い当主らしい、立派な挨拶だった。
ホテルからの豪勢な食事とシャンパンに酔う。がやがやとみんなであーでもないこーでもないと、子育ての自論を戦わせる。そこにはほのぼのと温かい空気が流れていた。
「お車の方は泊っても構いませんから」
そうゆめさんに言われて、うっかりシャンパンを飲んだ彦介はほっとした。
「泊まってくんだね!?」
勝子の目がきらりと光る。どうしてもこの屋敷のベッドに寝てみたい。
「飲んでしまったからお言葉に甘えよう。明日の朝帰ればいい」
「父ちゃん、最高!」
宇野夫妻が泊まるから堂本夫妻も泊まる。茅平家は宗田家と昵懇だから近くはあるがやはり泊まることにした。
そうはいってもやはり年齢が年齢だ、どんちゃん騒ぎにも限界がある。
「帰るのかい?」
「俺たちは仕事があるから」
花も哲平も花月も花の家に帰る。花音や風花だっている、だからまさなりさんもゆめさんも引き留めはしなかった。風花はしっかりとみんなにお小遣いをもらったから終始にこにこしていた。母の方針で、少ない小遣いでやりくりしている。臨時収入は有難かった。
「おやすみ」
「気をつけて帰るのよ」
「花月、早く寝るんだぞ」
そんな声を受けて宗田邸を後にした。
車の中で哲平が呟く。
「花枝、か。千枝の字から取ってくれたのか」
「『はなえ』じゃなくてほっとしたよ。俺から取ったみたいになっちゃうからな」
助手席の花月が父の膝を叩く。
「そう言われるような気がしたんだ。それは避けたいからね」
「言ったな?」
父子で笑う。
「桃枝っていうのもいいかなって思ったんだ、3月3日生まれだからね。でも和愛がこれにしたいって。俺も気に入ってるし。初めて生まれる子が女の子なら、お義母さんの名前から一字もらおうって2人で決めてたから」
哲平は後部座席で泣いていた。
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