蓮とジェイは?

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蓮とジェイは?

    蓮がジェイと宗田家に来ることが増えた。 「今日の差し入れ」  そう言って土曜には必ず食事を届けに来る。もちろん健康バランスを考えた食事だ。 「毎週、いいのに」  真理恵が蓮を労わるように言う。 「真理恵も大変だからなにか役に立ちたくてね。花枝は寝てるのか?」 「起きてるよ。奥へどうぞ」  そう、目的はこれだ。血の繋がりのない蓮としては、とにかく花枝に自分を印象付けたい。なんならプリンティングしていきたい、この腕の感触は『蓮おじさん』なのだよ、と。  いつもの儀式のように、和愛に許可をもらって花枝を抱き上げる。庭に出て小さく呼びかける。 「ほら、蓮おじさんだよ。花枝のお祖父ちゃんの1人だよ」 「なにやってんのさ、蓮ちゃん!」  花に見つかった。 「ちゃんと手を消毒した? ジェイん時みたいに指を咥えたりしてない?」 「俺はジェイじゃない」  ちょっとむすっと蓮が答える。ジェイは「なんの話?」と、花音にしていたことをすっとぼけている。  そのおでこを強く弾いて、のたうつジェイを放り出しながら蓮の腕から花枝を取り上げた。 「変な刷り込みしないでよね」 「ずるいぞ、お前ばっかり」 「俺は本物のお祖父ちゃんなの! 蓮ちゃん、隙あらば3人目のお祖父ちゃんになろうとしてるね!」  花も分かっている。蓮は寂しいのだと。そこを突き詰めるわけにはいかない、それはジェイを追い詰めることになるのだから。だから結局はまた蓮の腕に花枝を戻す。 「今日のご飯はなに?」  和愛が無邪気に聞く。 「今日は赤飯を持ってきた。いい母乳が良く出るって花に聞いたんだよ。あとは和愛の好きな厚揚げと筍の煮物。魚は味噌漬けのシャケだ」 「美味しそう! あのね、食べても食べてもお腹が空くの! きっと花枝がどんどん食べてるからだよね」  そんなことを話している内に花月が帰って来た。今日は履修の関係で大学に行っていた。 「いらっしゃい! ああ、蓮おじさん、また抱いてるの!? 抱き癖付けちゃダメだよ!」 (お前も花そっくりだな) 心の中で舌打ちをしながら花枝をベッドに戻す。 「あのね、1人で寝かせるって大事なことなんだよ、」 「ああ! 分かった、分かった! ちょっと抱いただけだ、そんなに目くじら立てるな」 「まったく……花枝ー。お父さんが帰ってきましたよー」  ジェイが1人呟く。 「花枝ちゃん、みんなに囲まれてるの、うるさいって思ってるかもしれないけど幸せなことだからね。いいお顔見せてね」  それは誰の耳にも届いてはいない。ジェイはみんなに包まれている花枝を見て、自分の幼い頃を塗り替えているのだ。だからジェイもすごく幸せだ。 「じゃ、また来週な」 「また来るね」  花月が真面目な顔をする。 「蓮おじさん、俺、すごく感謝してる、和愛と花枝の健康を考えた食事を届けてくれること。ね、負担になってない? もしそうなら無理してほしくないんだ」 「花月、俺は喜んでやってるんだよ。ジェイだってそうだ、俺たちはいつだってお前たちとも家族だと思ってるんだ」 「……うん。俺もそうだよ。蓮おじさんもジェイくんも他人なんかじゃない。R&Dからの大きな家族で、そしてその中でも特別な家族なんだ。いつもありがとう」 「そう言ってくれて嬉しいよ」 「俺もね、花さんや哲平さんの孫なんだから俺は叔父さんだっていうことになるんだよ。だって俺、花さんと哲平さんの弟だもん。だからかづくんも叔父さんだって思ってくれると嬉しいな」  黙っていた花が突っ込む。 「ジェイ、お前、花枝の叔父さんじゃないぞ」 「え?」 「花月の叔父さんだろ? 『大叔父さん』ってのが正解だ」 「『大叔父さん』……すっごくお年寄りになった気分……」 「じゃ、俺は『大伯父さん』か……」  ジェイと蓮の微妙な顔つきにみんなで笑った。  
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