新たなる報告

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   花月も和愛も覚悟して哲平の前に座った。哲平の自宅だ。話があると言って、ここにしてもらった。 「ウチで話すなんてよっぽどのことか?」  階段の位置が変わったことで、リビングが広く見える。和愛はまだこの家の変化に馴染めずにいる。花枝はよく眠っているから2階の父のベッドに寝せて下りてきた。  和愛が口を開こうとしたのを花月が止めた。これは自分に責任がある。 「お義父さん、ご報告があります」 「なんだ? 改まっちゃって」  花月はストレートに切り出した。 「二番目の子どもが出来ました。もうじき4ヶ月になります。生まれるのは来年の4月になります」  お茶を飲もうとした哲平の手が止まった。ガタリ、と音がして湯呑がテーブルに置かれる。身が竦む思いがした、怒り出すだろうと。 「すごいじゃないか! え、もう1人続けて孫が出来るのか!?」  すぐには言葉が出てこない花月に代わって和愛が答える。 「うん、そうなの。赤ちゃんが出来たの」 「そうか……そうか、赤ちゃんが……」  花月は純粋に喜んでいる哲平の姿に胸を打たれた。今度ばかりはマイナスのイメージしか持たれないだろう、と思い込んでいた。だが…… 「なんだ、どうしてお前たちは喜んで無いんだ? ……まさか、堕ろすつもりだとか」 「そんなつもり、全然ないです! 俺たちは喜んでるけど……でも早すぎるから」 「赤んぼの生まれるのに早いも遅いもあるか。いいじゃないか、家族が増えてくってのは。……そうか……赤んぼかぁ」  その様子が本当に嬉しそうで。 「話して良かった……俺たち、喜ばれないんじゃないかって不安だったんです、無計画すぎるだろうって」 「いいって! 少なくとも俺は喜ぶぞ! ……花か……あいつはなんか言いそうだな」 「はい」  思わず素直に頷いてしまったから哲平は笑い声をあげてしまった。 「授かりものだ、四の五の言うなって言ってやるよ。俺にそばにいてほしいんだろ?」 「出来れば」 「出来るさ! 俺の孫でもあるんだぞ? そうか、『孫、再び』か」  哲平は終始、嬉しそうだった。 「だから?」  花月からの報告に、一転して冷たい花の声。真理恵でさえ、隣に座っていてヒヤリとした。 「生まれるのは来年4月です。もう花枝も落ち着いてきたし、私自分の家に帰って子育てして……」  花から無言の圧力が返ってきたから和愛の言葉は尻つぼみになった。 「誰か出て行けと言ったのか?」 「……いえ」 「花、腹に一物あるんならさっさと言ってくんないか? 吊るし上げ食らうような話じゃないんだから」  今度は哲平の声に苛立ちを感じ、花月はなんとか穏やかに話をしたいと頑張った。 「和愛の大学のことなら調べたんだ。BIUっていう」 「遠隔教育か?」  すぱっと言われてなぜか焦る。 「う、うん。そこに望んでいる学部を見つけたから所属しようって」 「お前は?」 「俺? ……は、現状維持で」 「甘ったれんな。和愛は2人の子育てと勉強で、お前は勉強オンリーか」  そこを突かれるとは思ってもいなかった。 「アルバイトもずい分シフト減らしてるよな? ここにいるから収入が無くてもなんとかやっていけてる。けどこれで自分の家に帰ってどうやってやりくりする気だ?」 「……そうだね。覚悟が足りなかったのは俺の方だったって思う。和愛にばかりしわ寄せが行ってる……ごめん、和愛。お前、そっちも不安だったんだろ?」 「……うん」 「父さん、それからお義父さん。そこもうちょっと煮詰めます。ただ、2人目の子どものこと、認めて欲しい」  花月は花父に頭を下げた。和愛もだ。それまで黙っていた真理恵が口を開いた。 「認めるもなにも。赤ちゃんの誕生にどうこう言う訳ないでしょう? 和愛ちゃん、条件があるの」 「はい?」 「自分の家に帰れないの、辛いかもしれない。けどね、次の赤ちゃんが落ち着くまでここで生活してほしい。これからどんどん体が辛くなっていくのに家に帰るの? 良くないって思う。世の中にはそうやって自分1人で苦労して子育てしてる人たくさんいるけど、その人たちと比べて『甘えてる』って言う考え方をするならそれは捨てなさい。助けはちゃんと受けて、和愛ちゃんが一番大変なんだから」  花の声がやっと柔らかくなる。 「和愛、おめでとう。先にそれを言わなくて悪かった。哲平さん、そんなに睨まないでよ。男側の親としては厳しいことを言わなきゃなんないんだ。花月には甘ったれて欲しくない。けど和愛は甘えられるだけ甘えてろ。いろんな環境の中で子どもは育つ。俺たちは愛情の中で育ってほしいって思ってる。そのためにもお前に無理をしてほしくないんだ」 「はい……はい、ありがとう、お義父さん」  その夜は花と哲平2人で静かな祝宴をあげた。 「あっという間に2人の孫か……」 『じぃじ』、『花じぃ』という言葉がR&Dでさえ定着しつつある2人。 「俺たちの方がよっぽど報告しにくい」  花が苦笑いする。 「そう言うなよ、めでたいんだから」 「そうだけど」  そんな話で盛り上がる。その次の子どもも年子で生まれることになることも知らずに。  花月夫婦は3人の年子を抱えることになるのだから。  
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