盛り上がるなら

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盛り上がるなら

   花の家には赤ちゃんがいる。だから盛り上がるわけにはいかない。当然R&Dの連中のなだれ込む先は決まっている。蓮もジェイも週末は大忙しだ。 「花じぃがうるさくてさ、花枝には2回しか会ってないんだよね」  野瀬が零す。 「2回だって多い方だ、その声で会おうなんて厚かましい」  野瀬は4月ではなく、9月になってやっと帰国した。『早く日本に慣れないと』なんてジョークも飛び出している。  花はもらったほうじ茶を飲んでいる。今日はアルコールはやめだ。車で来ているから、と言い訳付きだ。  運転手がいるから、と哲平はアルコールを口にしている。 「じぃじ、酒臭いと花枝ちゃんに嫌われるんじゃないの?」  澤田に言われて、くんくんと両腕を交互に嗅ぐ。 「大丈夫、臭くない!」 「自分では分かんないもんだよ」  浜田が結構生意気なことを言ったから哲平からケリが出た。 「わ、休日にパワハラだ!」 「うるさい、減給にするぞ」 「わ、パワハラだ! 誰か証人になって」  とにかく賑やかだ。みんな用もないのに、「じぃじ」「花じぃ」と連発しては睨まれる。 「49にして、2人の孫!」 「47にして、2人の孫!」  囃し立てられて花はそっぽを向き、哲平は「羨ましいか!」と胸を張った。 「穂高と同じ年なんだよなぁ」  池沢がしみじみと言う。 「結婚でさえまだまだなのに、孫だなんて考えられない」 「三途さん、いい歳だから急いであげた方が、いたっ」  柏木の頬はそばにいた田中に捻り上げられた。 「田中さん、グッジョブ!」  アルコールで口が軽くなっている中山からそんな言葉が零れた。 「ありさに言っとくよ、柏木」 「い、いえ、ちょっと酔っ払っちゃって」  醜い言い訳をする柏木に周りが茶々を入れている。 「今日はほどほどにして帰ろう。ウチの運転手も調子悪そうだし」 「花、仕事なら気にすること無いぞ。今のうちに休んでくれ」  尾高が大声をあげた。それに賛同する声が多数。 「翔くん、お願いね」  何度もジェイにお願いされている翔が、またしっかりと頷く。 「任せてください! ここんとこずっと仕事先回りして取り上げてますから」 「翔!」 「花さん、怒ったってだめだからね! 俺が翔くんにお願いしてるんだから」  ジェイと翔の連携がこのところ上手く行っていて、花の手が空く時が増えている。 「ご馳走さま!」 「また来るね!」 「今日も美味しかった」  今日は哲平の言葉もあって、早めの挨拶だ。 「蓮ちゃん、ごめん」 「いいさ。ジェイも最近運転に慣れてきてるから」  結局花に無理をさせたくなくて、運転手は蓮だ。帰りのためにジェイは後ろから軽でついて来ている。ジェイの助手席に花だ。 「お前も無理するなよ」 「俺? 大滝さんも呆れてるんだけどさ、俺って胃が痛くなったことも無いんだよね。風邪も引かないし。バカじゃないってことは蓮ちゃんも知ってるでしょ? 昔風邪ひいて休んだんだから」 「あの時以来、バカになったってことも有り得る」 「しっつれいだな!」 「とにかく健康を過信するな。定期健診、ちゃんと受けとけ」 「大丈夫、会社のドッグにも入ってるから」  そんなやり取りは後ろの車には届いていない。 「寒くない? ヒーターつける?」 「いい。俺、暑がりなのにさ、みんなして過保護なんだよ」 「それだけ花さんが大事なんだよ、有難いって思わなくっちゃ」 「有難迷惑ってヤツ」 「またそんなこと言って」 「お前さ、運転上手くなったな」  するりと話題を変える花。素直だからジェイはすぐにその手に乗る。 「そう!? 蓮にもね、上手くなったって褒められたんだよ!」 「お前の運転だって言うのに、安心して乗ってられる」 「……それ、褒めてないよね?」 「褒めてる、褒めてる! ほら、前向けって!」  久しぶりの2人の空間は楽しかった。  
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