喜びと不安

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喜びと不安

   二番目の出産はすんなりと行った。そう待つことも無く、和愛も落ち着いていたし、花月も落ち着いて付添いが出来た。周りもずっと穏やかだ。お祭り騒ぎには違いないが。  名前は『(さとる)』、男の子だ。これには哲平が狂喜乱舞した。またよく似ているのだ、哲平に。泣き声も元気いっぱいで、泣く時には断固として泣く! といった具合だ。勝子によれば、泣き方は哲平そっくりだと言う。  2時間おきにおっぱいを欲しがるから母親が体力を削り取られていく。 「ミルクに替えよう。そしたら夜中、俺も替わることが出来るから」 「花月は仕事があるからダメ。それに母乳で育てたい」  そこは和愛が譲らない。こればかりは夫婦の問題でもあるから真理恵も花も哲平も口を出さなかった。  土曜日哲平が来た時、ちょうど和愛が昼寝をしていた。むずかりそうな気配を感じて哲を抱いて庭に出る。 「おい、頼むよ。少しは母ちゃんを休ませてやってくれ」  だが本格的に泣き始める。 (この頑固さ……性格は花似か?) 自分は素直な子どもであったと哲平は思っている。勝子が文句を言ったことが無いのだから大人しかったに違いない。 「父ちゃん、哲連れてきて」 「起きたのか。すまん、役に立てなくて」 「ううん、もう慣れっこだよ」  10月にしては暖かくて穏やかな日だ。縁側に座って和愛がおっぱいを取り出すから目を逸らして呟く。 「母親って偉大だよな、哲がデカくなったら父ちゃんがうんと言い聞かせるからな」 「なんて?」 「赤んぼの時一生分面倒見させたんだから我がまま言うな! ってさ」  うふっと和愛が笑う。 「じゃ、反抗期に入ったらお願い」 「任せとけ! そう言えば花月の様子はどうだ? 夏はへばってたって聞いてたけど」 「仕事が仕事だから……でも頑張ってるよ」 「あいつも頑固だからな。……そうか、哲は父親似か」 「そうなの?」 「頑固なとこ。花に似たのかと思ってたんだけどさ」 「お義父さんもこの前哲に怒ってた、『お母さんを大事にしなさい』って」 「だよな!」  和愛はそれを思い出すと可笑しくなってくる。それほどに花はきちんと大人にでも言い聞かせるような話し方をしていた。 『ストレスがかかるとお乳って出なくなるんだぞ。お前のせいでそうなったら困るのはお前じゃないのか? そこをよく考えるんだ』  それでも結局哲の泣き勝ちだった。 「ねぇ、父ちゃん」 「なんだ?」 「お義父さん……無理してるんじゃないかなぁ」 「……今はそんなに仕事はきつくないんだ。本人は夏バテが続いてるんだって言うんだけどな」  哲平も気がかりなのだ。最近ではオフィスメンバーでさえ言っている、『仕事をしばらく休ませたらどうだ?』と。時々真っ青になる時があるから。 「それもあって今日は来たんだよ。来週一週間、休みを取らせるつもりなんだ」 「そうしてあげて。見てて辛いの」  今も昼寝だと言って花は布団に横になっている。  チャイムが鳴って、玄関に出ると蓮とジェイがいた。 「こんにちは! 花さんが寝込んでるって聞いたの。具合どう?」 「入れよ、今寝てるから」  途端にジェイの顔が曇る。蓮は静かに入り口を締めた。  和愛がお茶を入れてくれた。蓮は花枝と哲を交互に抱いてから居間に落ち着いた。今真理恵は買い物に出ている。 「どうなんだ?」  哲平の暗い顔にジェイは怖くなった。その先を聞きたくないようで。 「来週いっぱい休ませようと思ってるんだ」 「それがいい。……健診にはちゃんと行ってるのか?」 「前回は行ってないんだよね、ちょうど仕事がトラブっちゃってる時でさ、後になって気がついたんだ」 「気がついたなら行かせれば良かったろうに」 「行きたがらなくてさ……失敗したと思ってるよ」 「来週はなにがなんでも行かせろ、なにかあってからじゃ遅い」 「なにか……あると思うの?」  恐怖に満ちた顔でジェイが聞く。蓮はその頭を撫でた。 「そうなったら困るって話さ。今日は花の好物を作ってきたんだ。たっぷり食って欲しいから」 「うん、いつもありがとう。大変でしょ? こんなに大人数なんだし」 「花月も気にするがなにせ好きで仕事にしてるくらいだ。店に比べりゃどうってことない」 「有難いよ」  
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