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そして
いい天気だった。そう寒くも無くて、それでも周りが心配するから花はコートを着ていた。
「来たよ」
そんな声を両親にかける。ぱっと顔が明るくなって「さあ、座ってちょうだい」と母が言う。
先に来ていた花音が「いらっしゃい」などと言うから笑った。
なにもかもがいつもとそう変わらない日曜だった。
今日はホテルからの食事じゃない。全部母の手作りだ。花の好きなオートミール。パンは焼き立て。チキンは、ジョージア料理のシュクメルリ。普段自分が作れないようなものを、と真理恵がゆめさんに頼んだ通りに。
「気分の向くものを好きなだけ。そんな食べ方でいいのよ」
ゆめさんの言葉に花が頷く。
「ありがとう、母さん」
「珍しい! まさなりさん、花が料理にお礼を言ってくれたわ」
まさなりさんもにこにこしている。
赤ちゃんが2人いるのだ、話題には事欠かない。それに花月と和愛には報告事項がまた出来た。三回目の妊娠。それを今日、ここで告げたい。
和愛の勉強も上手く行っているし、花月も自分の勉強について考え直している。和愛と同じBIUを受けようかと。親友の譲も同じことを考えている。
にぎやかな食事だった。コーヒーを出し、ココアを出し、ウバを出し。花月が喋りながら父にちらりと目が行った。
「父さん? 具合悪い? ベッドに」
言葉は最後まで続かなかった。
花が
倒れた。
「きゃ……」
叫びにもならない和愛の声。椅子の上で目を閉じた花は、そのままくらりと床に落ちた。
真理恵が立つ。花月が椅子を蹴った。哲平が反対側から駆け回り、花音が悲鳴を上げそうな自分の口を押さえる。誰よりも、隣にいたまさなりさんがそっと花を自分の膝に仰向けに抱えた。
うっすらと目を開けた花の透き通るような白い顔。その口から、鼻から、鮮血が溢れていた。
「は、な……」
絞り出すようなまさなりさんの声。
花月が
「救急車!」と叫ぶ。
哲平がゆめさんを揺さぶって、澤先生への直通電話をかける。
花の目が、
真理恵を探す。子どもたちを見る。両親を見る。
微笑んで、目を閉じた。
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