戦い

2/8
前へ
/186ページ
次へ
   哲平は電話をかけ始めた。大滝、田中、池沢。茅平家、堂本家、宇野家。大家さんの髙橋さんにも連絡した。 「はっきりしたら改めてご連絡します」 そう伝えた。  田中と池沢はオフィスメンバーへの連絡を受け持ってくれた。例え来たとしても会えるとは思えない、そうも伝えてある。突然の知らせに、皆が言葉を失った。 「宗田さん」  担当医師からの説明を聞くことになる。蓮とジェイ、和愛は子どもたちの面倒を見ながら廊下で待つことにした。  20分近く経って、診察室から出てきたみんなの頬が濡れていた。 「哲平、聞かせてくれ」  蓮は歯を食いしばった。ジェイの代わりに自分がしっかりしなければ。聞かなければ。動かなければ。 「白血病、だって……急性だから……今ちょっと持ち直したけど……余命……もって後一か月、って」  しっかりすると誓った哲平が崩れそうだった。廊下に出たみんなが震えている。花月と花音と風花は検査のために処置室に行くのだという。 「検査?」 「血液検査……適合すれば助かる見込みも……俺も検査、受けて来る」 「なら俺も行く。ジェイ、お前も来い!」 「う、ん……」  雲の上を歩いているようだった。ジェイには本当のことだと思えない。哲平はなにを言ったのだろう? 余命? もって一か月? どれもが耳を素通りした。  小さな針の痛みはジェイの浮遊していた感覚を呼び覚ました。 「いたい」 「もう終わりましたよ」 (はなさん……死なないで、はなさん……)  ただ、それを願っていた。早すぎる。自分とは3つしか年が離れていないのだ。あまりにも早すぎる。 (俺の骨髄、役に立つ? 誰のでもいいから役に立つ?) 今頃になって『余命一ヶ月』の言葉の意味が浸透してくる……  処置室を出て、蓮の姿を求めた。自分より先に終わっているはずだ。蓮はソファの一番端にいた。ジェイがふらっとそばに行くと立ち上がって抱きしめてくれた。 「頑張ったな」 「これしか……出来ないから」  見回して、真理恵、花月、哲平、まさなりさんの姿が無いことに気がついた。 「蓮、みんなは? 哲平さんたちは?」 「花が目を開けたんだ。だから会いに行ってる。待て! 俺たちはだめだ」 「なんで!? 俺も会いたい!」  ジェイの両腕を掴んだまま、蓮は深呼吸を繰り返した。 「俺も会いたいよ。ジェイ、俺もだ。けど今は家族の時間だ。会いたい人間じゃなくて、会わなきゃならない家族が優先だ、花も疲れてしまうから」  泣きじゃくりたいのを必死に我慢した。薬を飲む。同じく会えないゆめさんや花音、風花、和愛たちと並んで座った。みんな、泣いて自制することが難しい人たち。  しばらくして帰って来た4人は、まるで自分たちが病人のように衰弱して見えた。哲平が近寄って来る。 「少しだけど話せたよ。ほとんど花月が喋った。あいつは……俺なんかよりしっかりしてたよ。あいつがいて良かった。真理恵をしっかり抱き寄せて花に安心しろって……『母さんの面倒は俺が見るから』って……俺はバカみたいにただ『任せろ』『任せろ』ってそればっかり言ってきた」 「それでいいんだ。花もきっとみんなのことが気がかりなはずだ。お前の存在は大きいよ」 「うん……ありがとう、そう言ってくれて……花が……謝るんだ、ごめんって……」  哲平はまた自分の両頬を強く叩いた。 「よっしゃ! 花の留守は俺が預かる。もうみっともない真似はしないぞ」 「お願い……哲平さん、お願いします。お願い」 「ジェイ、任せとけ。今日なんだけど、花月とまさなりさんと真理恵はここに残る。後はみんないったん帰ることになるんだ。それで、良かったら花んとこに泊まらない? 男手があった方が有難いから」 「俺たちで役に立つことならなんでも使ってくれ。お前が仕事の間も俺たちがいる」 「そうしてもらえると有難いよ。子どもたちの飯の世話もあるしさ。使うようで悪いけど」 「やれることがあるのが一番有難い。ただ見てるだけなんて無理だ」 「助かる」  
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

427人が本棚に入れています
本棚に追加