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結果が出た。
誰も適合しない中でただ1人。花月の骨髄が適合した。
「母さん! 俺が、俺が適合したよっ!」
診察室に呼ばれた花月が走って戻って来た。
「ほん、とに? ほんとに!?」
「これから準備について説明を受けて来る。母さんも立ち会う?」
「ええ、もちろん!」
まさなりさんもついて来た。悪い出来事の中の一筋の光明。これで花は助かるのだと。
制約はそれほどなかった。前日から術日の翌日までの入院。大きな負担はないが、万一の場合の説明をくどいほど受ける。
花月は叫び出したくなっていた。
『いいからさっさと移植してくれ!』
昼過ぎ、父と面会をした。
「父さん、俺が助けるからね」
「気に、すんなよ、なにが、起きても」
父は辛うじて生きているようだった。抗がん剤との戦いに負けかけているような。真っ白な肌が怖かった。まるで彫像が喋っているような冷たさを感じる。
「ざけんなっつーの。父さんは哲を面倒見てくんなくちゃ。次の子どもも和愛のお腹にいるんだし」
「つぎの、子ども?」
「うん。三番目が出来た」
口元が歪んだから、笑ったのだと分かった。
「ばぁか、つくり、過ぎだ」
たったそれだけの笑いで体に無理がかかったのだろう、花は少し吐いた。看護師がもう面会は無理だと告げる。
父が言葉を絞り出す。
「多くを、のぞむな。母さんを、たのむ」
「バッカじゃないの? 父さんが死んだら母さんもすぐ追っかけるよ。イヤなら生き残ってくんないと」
気弱な父を見ているのが苦しい……
(父さんは大丈夫だ、俺が助ける、なんとしてでも助けてみせる!)
真理恵が面会をしたのはその午後だ。2人は見つめ合った。花が無言で言う。
(マリエ、がんばれって言って。そしたらいくらでも俺はがんばるから)
真理恵は正確に花の心をくみ取った。
「花! 頑張れ! 負けるな、花!」
花の口元に微かに笑みがこぼれた。
知らせを聞いて駆け付けた家族。ゆめさんや茅平の家の人たち。花音が泣いて花月の手を握る。
「花月、父さんをお願い、助けて、お願い」
花月は頭一つ小さい花音の肩をぽんぽんと叩いた。
「父さんは大丈夫。いつだって強くて意地っ張りなんだから負けるわけないよ」
花月は和愛に状況を説明した。
「そんなに万一の場合の話をされるなんて、安全なの?」
「和愛、これは安全かどうかじゃない、父さんが死ぬのを見てるのかどうかってことだ」
「花月の言ってること、分かるよ。でも家族としては」
「みんなが大きな家族なんだ。どうしたんだよ、いつもの和愛らしくないぞ」
「こわ、くて……お義父さんでさえ病気に負けそうで……花月になにかあったら」
花月は和愛を抱きしめた。大きな渦の中に巻き込まれてしまった妻と子どもたちを思う。和愛は反対をしたいわけじゃないのだ、ただ純粋に怖いのだ。
「……それでもね。父さんを助けることが出来るのが俺だってことが嬉しいんだよ。きっと成功する。父さんも良くなるし、俺には何も起きない。約束するから」
移植の朝……皆が病院に集まった。R&Dからは池沢と浜田が。ただ祈るためだけに。
移植される花の体の用意は出来ていた。花自身の骨髄を壊し空っぽにする大量化学療法と全身放射線治療。移植による花月の幹細胞を体に受け入れるためにだ。副作用で、激しい嘔吐、下痢などを繰り返す。頭髪はすでに抜け落ちていた……
9時過ぎ。花月は手術室に横たわっていた。全身麻酔を受ける。気がつけば全てが終わっており、時計を見ると11時20分ごろ。
「終わったんですか?」
「はい。これから病室で安静にしていただきます」
眠っていたのだからなんの実感も無い。ただ腰の辺りに痛みがあるくらいだ。
そして、花への移植が始まった。
幹細胞が体に定着することを『生着』という。適合していても無事生着しなければ移植は失敗だ。その結果が出るのをまたしばらく待つことになる。
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