427人が本棚に入れています
本棚に追加
「……俺、マリエと結婚して本当に良かったって思ってる。あいつがいなかったら……」
「過ぎた嫁さんだ、お前には」
蓮が言う。
「お前1人ならとうに干からびてたな」
「蓮!」
哲平が賛同した。
「その通りだと思うよ。花と真理恵と子どもたちと孫。1人だって欠けちゃいけない。そして蓮ちゃんとジェイもね。俺たちってお互いに知り合って何年?」
「26年だ」
蓮が即答した。
「すげ……人生の半分だ。こんな俺に付き合ってくれて……ありがとう」
一瞬3人の脳裏に浮かんだものは……
「不気味なこと言うなよ! その倍は付き合う覚悟してるんだからな!」
哲平が荒っぽく言う。今こんなタイミングで花から礼など言われたくない。それはみんな同じだ。
「そうだね……ごめん。うん、俺もそう思う! 二倍でも三倍でも付き合っていこうな、ジェイ」
「そうだよ! 俺、蓮とだってあと100年は一緒に暮らすんだ」
「そりゃ長いな!」
思わず蓮が感嘆した。
「え、そう思わないの? 俺だけなの、そう思うのって」
蓮がくしゃっとジェイの髪をかき乱した。
「しょうがないな、じゃ、あと100年は俺も生きて行かなきゃ」
ジェイが嬉しそうににこっと笑う。
哲平が手を止めて空を見上げた。
「井之頭公園、思い出すな」
ジェイを連れてボートに乗ったあの日々が蘇る。
「ジェイがスワンボートに乗りたいって言い出して焦ったっけ」
「俺、乗ったもん。蓮がスーツ着て連れてってくれたんだ」
時は偉大だ、ジェイはその記憶を取り戻していた。
「え、スーツだったの?」
「あれは……たまたまだ」
「違うよ、蓮がスーツに着替えろって言ったんだよ」
哲平と花が爆笑する。
「男2人、スーツでスワンボートか」
「うるさい! もう忘れた!」
浜辺を離れた海の上で笑いが波に漂った。
残念ながら今回の旅行は社員寮じゃない。だから夜全員で集まって余興をするということが出来なかった。その分、最後の夜は大宴会場で食事会となった。みんな立ち歩いていろんなお喋りを楽しむ。
動き回らない花のテーブルにありさが来た。
「お酒やめてるんでしょ?」
「うん。薬飲んでるから。三途さんは? 解禁だよね」
「ええ、もう好きなように飲んでるわよ、隆生ちゃんと張り合って」
そのありさにワインを傾けてやる。
「昔さ、ドンペリジョッキで飲んだでしょ」
「そんなことあったっけ?」
「俺、あのせいで小遣いのほとんどはたいたんだよ。だからよく覚えてるんだ」
「男が小さいことにこだわんないの!」
「よく言うよ! まさかホントに飲むなんて思わなかった。あん時に三途さんのこと、リスペクトしたんだ」
「あら! 嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
「悪い意味で、ってこと。な、マリエ、小遣い特別支給してくれたよな?」
「ああ、思い出した! 珍しく花くんが『小遣いくれ』って月の途中で頼んだんだよね」
「あんた、月にいくらもらってんの?」
「5万」
「うっそ! 私隆生ちゃんに10万渡してるわよ」
「だって俺、池沢さんみたいに飲まないから。充分足りてるよ」
「真理恵ちゃん、あんたの旦那、貴重品だわ」
そこに蓮とジェイが参戦してきた。
「蓮ちゃんは? 小遣いいくら使ってるの?」
「俺はまちまちだよ。祝い事があるとどーんと出ちゃうしな。小遣いというより家計費から直接みたいな」
「俺はね、2万円もらってるの!」
「ま! ここにもっと貴重品がいたわ」
「2万!? 少な過ぎじゃねぇの!?」
蓮が笑う。
「いいんだよ、それで。こいつお菓子だのなんだの、それしか使わないんだから。2万でも多いくらいだ」
真理恵が驚く。
「え、ジェイくん、月に2万円もおかし食べてるの!?」
「違うよ! そこから積み立てして子どもたちのお祝いとか買ってるんだもん!」
「良かったよ! お前なら2万お菓子食ってたって不思議じゃない」
「そんなに食べないよ!」
むきになって言い返すジェイが可愛い。
最初のコメントを投稿しよう!