海へ

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  「……俺、マリエと結婚して本当に良かったって思ってる。あいつがいなかったら……」 「過ぎた嫁さんだ、お前には」 蓮が言う。 「お前1人ならとうに干からびてたな」 「蓮!」  哲平が賛同した。 「その通りだと思うよ。花と真理恵と子どもたちと孫。1人だって欠けちゃいけない。そして蓮ちゃんとジェイもね。俺たちってお互いに知り合って何年?」 「26年だ」  蓮が即答した。 「すげ……人生の半分だ。こんな俺に付き合ってくれて……ありがとう」  一瞬3人の脳裏に浮かんだものは…… 「不気味なこと言うなよ! その倍は付き合う覚悟してるんだからな!」  哲平が荒っぽく言う。今こんなタイミングで花から礼など言われたくない。それはみんな同じだ。 「そうだね……ごめん。うん、俺もそう思う! 二倍でも三倍でも付き合っていこうな、ジェイ」 「そうだよ! 俺、蓮とだってあと100年は一緒に暮らすんだ」 「そりゃ長いな!」  思わず蓮が感嘆した。 「え、そう思わないの? 俺だけなの、そう思うのって」  蓮がくしゃっとジェイの髪をかき乱した。 「しょうがないな、じゃ、あと100年は俺も生きて行かなきゃ」  ジェイが嬉しそうににこっと笑う。  哲平が手を止めて空を見上げた。 「井之頭公園、思い出すな」  ジェイを連れてボートに乗ったあの日々が蘇る。 「ジェイがスワンボートに乗りたいって言い出して焦ったっけ」 「俺、乗ったもん。蓮がスーツ着て連れてってくれたんだ」  時は偉大だ、ジェイはその記憶を取り戻していた。 「え、スーツだったの?」 「あれは……たまたまだ」 「違うよ、蓮がスーツに着替えろって言ったんだよ」  哲平と花が爆笑する。 「男2人、スーツでスワンボートか」 「うるさい! もう忘れた!」  浜辺を離れた海の上で笑いが波に漂った。    残念ながら今回の旅行は社員寮じゃない。だから夜全員で集まって余興をするということが出来なかった。その分、最後の夜は大宴会場で食事会となった。みんな立ち歩いていろんなお喋りを楽しむ。  動き回らない花のテーブルにありさが来た。 「お酒やめてるんでしょ?」 「うん。薬飲んでるから。三途さんは? 解禁だよね」 「ええ、もう好きなように飲んでるわよ、隆生ちゃんと張り合って」  そのありさにワインを傾けてやる。 「昔さ、ドンペリジョッキで飲んだでしょ」 「そんなことあったっけ?」 「俺、あのせいで小遣いのほとんどはたいたんだよ。だからよく覚えてるんだ」 「男が小さいことにこだわんないの!」 「よく言うよ! まさかホントに飲むなんて思わなかった。あん時に三途さんのこと、リスペクトしたんだ」 「あら! 嬉しいこと言ってくれるじゃないの」 「悪い意味で、ってこと。な、マリエ、小遣い特別支給してくれたよな?」 「ああ、思い出した! 珍しく花くんが『小遣いくれ』って月の途中で頼んだんだよね」 「あんた、月にいくらもらってんの?」 「5万」 「うっそ! 私隆生ちゃんに10万渡してるわよ」 「だって俺、池沢さんみたいに飲まないから。充分足りてるよ」 「真理恵ちゃん、あんたの旦那、貴重品だわ」  そこに蓮とジェイが参戦してきた。 「蓮ちゃんは? 小遣いいくら使ってるの?」 「俺はまちまちだよ。祝い事があるとどーんと出ちゃうしな。小遣いというより家計費から直接みたいな」 「俺はね、2万円もらってるの!」 「ま! ここにもっと貴重品がいたわ」 「2万!? 少な過ぎじゃねぇの!?」  蓮が笑う。 「いいんだよ、それで。こいつお菓子だのなんだの、それしか使わないんだから。2万でも多いくらいだ」  真理恵が驚く。 「え、ジェイくん、月に2万円もおかし食べてるの!?」 「違うよ! そこから積み立てして子どもたちのお祝いとか買ってるんだもん!」 「良かったよ! お前なら2万お菓子食ってたって不思議じゃない」 「そんなに食べないよ!」  むきになって言い返すジェイが可愛い。  
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