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哲平が孫たちを引き連れてテーブルに来たからありさが移動して行った。4人の孫をじぃじに預けて、花月と和愛は翔やリオとの会話を楽しんでいる。
「聞いといたよ。次の孫はいつ出来るのかって」
花の膝に乗ったのは花生だ。真理恵の膝には真枝。4歳の花枝も3歳の哲ももう1人で座っていられる。
「それで? いつだって?」
「さすがにもう考えてないってさ。あいつらもすぐに家が手狭になって苦労するだろうな」
花は笑った。花月たちはあのマンションからとうに4LDKのマンションに引っ越している。場所はやはり哲平や花の家の近くだ。哲平と花、2人のことがある。そう遠くに引っ越すつもりがない。
「俺とマリエが引っ越してあの家を明け渡してもいいんだけど花月が反対するんだ」
「そりゃそうだろ! あそこにはみんなの思い出が詰まってるんだから」
蓮やジェイも、あの家はいつまでも花の家であってほしいと思う。
酒を注がれるのは蓮と哲平だけだが、みんな代わりばんこに花のテーブルへとやってきた。花の病気のことがあってから、みんなが花の家に押しかけることがずい分減った。こんな時でもないと、真理恵と喋ることもほとんど無い。今ではみんな蓮とジェイの家に入り浸りだ。
「真理恵ちゃんってほとんど変わんないな」
浜田だ。陽子は子どもを産んでからぷっくりとした体形になった。だが真理恵は初めて会った時からほとんど変わっていない。一時期ふっくらとしたが今は戻ってしまい、結婚式で見た真理恵がそのまま年を経たような。
「ホントよね! 羨ましいわ」
陽子がため息をつきながらそんなことを言う。浜田は気にしていないのだが、女性としてはちょっとの体重の変化でも気になるものだ。
「私、合気道の練習を欠かしてないから。だから変わんないの。なにもしなかったらきっとぷくぷくになってると思う! 食べるの大好きだし」
そう言って真理恵は笑うが、花は心の中で申し訳なく思う。きっと太る暇がないのは自分のせいだろうと思うから。
澤田と橋田がテーブルにやって来た。
「俺たちさ、報告があるんだ」
「報告?」
「まさか子どもが出来たとか?」
花が冗談のように言う。もう年だ、そんなわけが無い。
「当たらずとも遠からず」
橋田の言葉にぎょっとする。体外受精とか代理出産とか……?
「なんか変なこと考えてるでしょ、蓮ちゃん」
「いや! その、」
澤田が珍しく頭を掻いて照れたように言う。
「あのね、養子を貰うことにしたんだ」
「養子!?」
意外過ぎてその後の言葉が続かない。
「今頃になってって思うだろうけど、児童養護施設に去年の頭ごろから通ってたのね」
「そこで情が湧いたっていうか……引き取りたいって思う子どもが出来たんだよ。今2歳なんだ」
「手続きがもうすぐ終わるの。だから晴れて親になるっていうわけ」
「2歳……親がいないってことか?」
哲平が眉間に皺を寄せる。
「1歳の時に駅にね、置き去りにされてたの。パソコンで打った手紙がポケットに入ってたって。育てられないからお願いします、って」
「ひでぇ……」
そういう親に嫌悪感が湧いてくる。
「自信あるのか? 子どもを途中から育てるって大変なことだぞ」
「同情じゃ子どもは育てらんない。欲しいからもらう、なんて以ての外だ」
蓮の声も花の声も厳しい。
「覚悟してる。それ以上に、その子を幸せにしたいんだよ。いつか養子だっていうことを話してやろうって思ってるんだ。戸籍を見れば分かることだし」
そういうことだ。『養子』という事実は消せないのだ。
「今はいいけど反抗期とか」
「花。俺たちは夢ばかり見てるわけじゃない。2人で精いっぱいのことをその子にしてやろうと思ってるんだ」
「今度ファミリーの会に連れて行くわ」
奈美は立ち上がって頭を下げた。澤田も立ち上がる。
「いろいろ教えてください。よろしくお願いします。頼りにしてるの、花、真理恵ちゃん」
思いがけない話に動転しているのはジェイだった。蓮の顔を見る。
(蓮もほしい? 養子……考える?)
ジェイの視線を感じ、蓮は微笑んで首を横に振った。ジェイの考えていることなど分かっている。
(俺はいいんだよ。お前がいる。そしてここにいる子どもたちが全てだ)
「厳しい選択をしたな」
哲平が、歩いていく澤田たちの背中を見て呟く。
「そうだね……せめてその子に幸せになってほしいよ」
「親が出来るって……いいことだと思って……だめだ、俺には考えられん、そんな難しいこと」
哲平が隣の哲を見る。
「実の親だって大変なのに…… あいつらを見守ってやろう。それしか俺たちには出来ん」
3人の将来が明るいものであってほしい。笑い合える親子になってほしいと、みんな心から願った。
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