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夕食はテルと2人して一緒に作った。主導権は取らずにテルの手伝いだ。
「済まねぇ、大将を顎で使うなんて」
申し訳なさそうに言うテル。
「なに言ってんだか! テルさんにもずい分世話になってるんだから。いくらでも俺たちを使ってください」
「ありがとうよ」
よくよく見れば時々腰を伸ばしては中腰になっている。テルは刑務所で腰を痛めたのだ。ジェイはごく自然にお玉で鍋をかき回すのをテルと替わった。2人でテルに次はなにをやればいいのか聞きながら体を動かす。それに気づいたのか、テルは涙ぐんでいた……
「こりゃ美味そうだ!」
親父っさんが声を張る。
「テルさんの味ですよ」
「いや、本職には敵わねぇよ。だろ? テル」
「その通りですよ。大将、ジェイ、助かったよ」
イチも柴山も優作も夕食に合わせて帰って来た。
「飯の匂いがしたか?」
親父っさんが豪快に笑う。柴山はにやっと笑って「そうですよ」と答えた。
「花は? 先週一緒だったんだろ?」
優作が箸も取らずに気にかける。
「休みながら動いてたから元気だよ。その内じっとしてられなくなるんじゃないかな?」
「あいつも貧乏性だよな! どぉんと構えて仕事なんかおっぽっときゃいいんだ」
「直にそう言ってやってくれ」
「そうするよ」
あれ以来一度も投げられていない優作としては、早く花に現役復活してもらいたい。投げられるのは癪だが、花には勢いがあってほしい。
「加減しながらじゃケンカもできゃしねぇ」
おかずを頬張りながら勢いよく言う優作は、病気知らずだ。
「バカは風邪も引かねぇからな」
そう言って笑う。けれどその底には熱い友情が溢れているのを知っている。
「優作さん、その元気を花に分けてやってくれ」
「いくらでも分けてやらぁ。その代わりバカが感染るかもしれねけけどな」
優作の笑い声が頼もしい。
「親父っさんが元気で良かったね!」
夜、布団の中。肌掛けがさっぱりとしていて気持ちがいい。
「ホントだな。焦って来たけど親父っさんの顔を見てほっとしたよ」
人の命の儚さを知った。そして今まで以上に尊さも。笑いごとで済むのなら間違いなどどうということも無い。花を思うと厳粛な気持ちになる。
「親父っさんもみんなもずっとずっと元気でいて欲しい……」
そう呟きながらジェイは眠ってしまった。いまだに薬だけは欠かさずに飲んでいる。
(お前もな。お前もいつまでも元気でいてほしいんだ)
大事な相手だからそんなことを真面目に考える。自分も定期健診や胃カメラをサボってはいけないと。
翌朝の掃除は、カジとジェイのタフさに驚かされた。掃除を手伝ったことが無い。いつもこんなに隅々まで磨き上げているのかと正直に驚く。
だから朝食は特に気合いを入れて作った。昼食も夕食も、それを言うなら明日も張り切って作るつもりだ。
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