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日常
土曜日は朝から洗濯日和だ。まめな河野夫婦は朝7時半には洗濯を終え、外にはシーツが翻っている。そのシーツは前夜の激しい愛のひとときを物語ってもいる。
「もう腰はいいか?」
ちょっとご立腹気味のジェイのご機嫌を取りながらバスルームの掃除を終えた蓮は、愛しい者を散歩に誘おうかどうしようかと悩んでいた。
「散歩なら1人で行く」
「そう言うなよ、一緒に行こう。なんなら買い物は俺1人で構わないから」
そんなことを言われると、心根が優しいジェイは、ちょっぴり罪の意識を抱いてしまう。
「……買い物するの?」
「いいんだ、外に出たついでと思ってたから。散歩が終わってから行ってくるよ」
「……俺も行く」
小さな声で何かを呟いたから蓮は聞き直した。
「なんて言ったんだ?」
「俺も行くって言ったの!」
途端に蓮はジェイを抱きしめて髪にキスをした。
「なに! やめてよね、俺怒ってるんだから!」
「分かった、俺が悪かった」
「スケベ蓮! いつだってすぐに止めてくんないんだ! どスケベ蓮!!」
「分かったって、お前の言う通り俺はスケベだ、『ど』が付くくらい」
開き直ったその態度がジェイにしてみれば憎たらしい。
その時チャイムが鳴って外が騒がしくなった。
「蓮ちゃん、いる!?」
さっきのケンカは言ってみれば犬も食わぬ…… いちゃいちゃに発展する前哨戦のようなもの。だから蓮は怒鳴り返した。
「いるよ!」
哲平の声に舌打ちしたい気分だ、お邪魔虫たちの登場だ。ジェイはこれ幸いと立ち上がった。
「なんだ、あいつら、旅行に行ってきたばかりだって言うのに」
蓮がぶつくさ言っている間に、ジェイが玄関を開けに行った。そこにずらっと顔を並べているのは、相変わらずのR&Dの仲間たちだ。
「電話くれたら良かったのに! 先週だったら留守してたんだよ」
「ラッキー!」
柏木が喜んだ。
「花んとこで盛り上がっちゃってさ! こっちに流れてきたんだよ、蓮ちゃんたちも一緒に騒ごうってね」
アメリカに行っていた野瀬は声が大きくなっている。よく花が我慢しているものだ。
「さっきなにを怒鳴ってたの? 表にまで声が聞こえてたけど」
柏木が好奇心満々に聞いてきた。
「え、……声だけ? なんて言ってたか分かった?」
さすがにジェイが焦る。『どスケベ蓮!』などという言葉が外に漏れ聞こえるようでは後々のケンカにも差し障る……というか、はっきり言って恥ずかしい。
「そこまでは分かんなかったよ。なんて言ったの? もしかしてケンカ? 俺たち騒いでも構わない? 帰った方がいい?」
出てきた蓮が、質問攻めの哲平の言葉に笑う。
「騒ぐもなにも……旅行で一緒に騒いだばかりだろう?」
「騒ぐのは何回でもいいでしょ」
意外な声に驚く。
「花!」
「花さん! 出かけて良かったの?」
旅行には行ったが、その後は安静にしていると聞いていた。
「旅行から戻ってたっぷり休んだからね。こっち来んの、久々!」
どやどやと上がってくる連中の脱いだ靴が玄関いっぱいに広がる。
「明るい内からお邪魔します。悪いね」
最後に入ってきた中山だけがちゃんと挨拶をしてくれた。
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