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サイドシート
今、俺の車の助手席には星乃が乗っている。
ややはしゃぐ様子でシートから体を起こし、こちらに話しかけてくる。
「ディナーに付き合ってくれたら迎えに行ってやるって条件、なんかすごいね」
星乃もマイカー通勤しているのだが、勤務先の駐車場でバッテリーが上がってしまい、その時連絡できる相手が俺だけだったと言っていた。
「久しぶりに救援電話しちゃったら、棚ぼただったぁ」
星乃は俺を覗き込んでいた姿勢から、窓の外に顔を向けた。対向車両のライトが星乃の横顔を順々に照らしていく。
俺は気づかれないように横目でチラと見遣った。
緩めのウェーブヘアが星乃の魅力を上げている。
俺と星乃は同い年で幼馴染みだ。
互いの両親は親友同士で、子供を作るタイミングを合わせたらしい。それが上手くいったパターンが俺達だ。
家も隣同士で、兄妹のようにも従兄妹のようにも過ごしてきた。
俺達は、子供の頃から互いのピンチには駆けつける展開を多くこなしてきた。
なんでもかんでも呼び出し合ったのは中学生まで。
高校では、連絡を絶やさないような雰囲気を持ちつつ過ごした。
大学に通い始めたあたりでは連絡の頻度が落ちた。疎遠にしていたわけではなかったが、先に俺が恋人を作ったから──星乃が遠慮したのだ。
社会人になってからはもう、親から入る情報が全てだった。
星乃の言う久しぶりの電話は、実に二年ぶりのものだった。まともに顔を合わせるのも同じくらいの期間が開いている。家が近いから、たまに顔を見ることはあった。だが星乃は優しく微笑み、軽く手をヒラヒラさせるだけで、すぐに視界から外れていくばかりだった。
二年ぶりに話す星乃は、俺の知っている彼女より、少しだけ大人の女性になっていた。
「ねぇ翔吾。今日の棚ぼた、すごく嬉しいよ」
星乃が俯き加減で呟いた。
ちょうど二年前、最後の電話となったあの時は、俺の勝手で星乃を助けてやれなかったんだ。
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