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ちょうど二年前
俺は、大学入学後しばらくして、同じサークルの子と交際を始めた。その頃星乃とは、頻繁に連絡をとりあっていたわけではなかったから、俺の情報はどうせ親から伝わるだろうと思っていた。
でもなぜか俺は、星乃に電話で伝えた。
──俺、彼女できたから。
なんであの時わざわざ電話をしたのか。曖昧な記憶に靄がかかり、明確な答えは出せないでいる。
星乃は「良かったね、お幸せに」とだけ言って、電話を切った。
それからは俺に遠慮してか、一切の連絡がなくなった。
結局、大学時代の彼女とは一年付き合って別れた。これは報告するべきか、などと考えたのは星乃と話をしたかった俺のわがままなんだと気づき、別れの連絡はしなかった。
それから俺は、社会に出て初めての夏に、新しい恋人ができた。友人の紹介だった。その子とは、意気投合を通り越し、あっという間に恋におちた。星乃に連絡は……しなかった。
彼女との恋は、互いを縛り付け合う恋だった。空いているすべての時間を共有するため、家族と住む俺の部屋で半同棲生活を送っていた。
そんな夏の、ある日曜日。
ちょうど二年前となる、あの日。
星乃が俺を頼り電話をかけてきた。
「星乃だよ、久しぶりにかけちゃってごめんねぇ。親達みんな昨日から旅行だから誰もいなくてさ」
懐かしくも感じるはずの星乃の声は、聞いたこともないほど弱っていた。俺の肩に寄りかかる彼女は聞き耳をたてている。
「熱、下がんなくて。病院、一人じゃ無理そう……なんだよね。車で運んでもらえたら、助かるんだけどな、ははは」
息遣いも荒く、壊れてしまいそうなほどか細い声だった。
──なんだよ突然。でもわりぃ、無理。
やや迷惑そうに答えた。
「ははは、だよねぇ、分かってた分かってた……本当にごめん、切るね」
どうしたんだ?
大丈夫なのか?
本当にごめんなさいは俺の方じゃ……。
だが、そんな思考を止めたのはそこにいた当時の彼女。嫉妬と詮索が始まり、俺の愛情を確かめることに夢中になった。
そばにいる彼女と俺自身の時間を優先させ、躊躇わずに断ることは罪ではない。
俺は電話のことを振り切るように、彼女からの夢中な要望に激しく応える。
彼女を選んだ俺は得意気に彼女を愛した。
もともと二人だけの世界と言わんばかりに盲目的だった俺達だから、外部のすべてを受け入れることなどできなかった。
互いに求め合い、貪り合い、自由を縛り付け合うことで繋がっている関係。
それを深い愛だと、あの頃の俺達は勘違いしていた──。
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