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キラキラ
助手席では、そわそわとはしゃぐ星乃が、また俺を覗きこむ。
「なんだよ」俺は助手席側をチラと見て言った。
すると星乃は、さらに覗き込むようにし、
「翔吾はさ、今日会うはずだった子に振られちゃったになるの?」
何を言い出すのかと思えばそんなことか。
「別におとしにかかってたわけじゃないから、答えはノーだ。ただ、ディナーは振られたけどな。笑いたきゃ笑えよ。実際俺も笑ったし」
ドタキャンされた話を笑ってほしかったから、運転席のドアに肘をついた姿勢で笑ってみせた。
それを受けて星乃は、覗き込むのをやめ進行方向へと姿勢を戻す。ストンとした感じで座り直し、シートに背を預ける様子がなんとも可愛らしい。俺の言葉に少し思案した星乃が言葉を返す。
「笑わないよ。だって笑う理由が見当たらないもん。それに私はラッキーなわけだし」
「ま、確かにラッキーだ。運転手付きの高級ディナーだからな」
さっきまで振り返っていた記憶があるだけに、気の利いた言葉がでてこない。
「ねぇ私さぁ、翔吾の車に乗るの初めてなの知ってた?」
知ってたも何も知ってるに決まってるだろ。急に乗せることになったから緊張だってしたぞ。大人になってからの交流なかったし、あの夏は病院に連れて行ってないし。
きっと星乃は、あの夏のことを言いたがっているんだ。謝りたかったあの時のこと、今なら……。
「私さぁ、男の人の車に乗るって思ったらドキドキしちゃった。バレてた?」
あの時のことを謝るタイミングを躱されたような気がした。代わりに星乃の放った言葉によって車内の温度と俺の体温が上昇した。
「何言ってんだよ。つーか彼氏の車で散々慣れてるだろうが」
少し冷静でいられなくなった俺の口はやや攻撃的だ。
「卒業してからの2人って知らないことだらけなんだよね。私ね、運転が好きなの。人に乗せてもらうなら自分で乗って行っちゃうタイプです。助手席も嫌い。なんか所在ない感じがいや。答えになってないかもだけど、そんな星乃ちゃんなんですよ」
要するに男の車には慣れていないと言いたいわけなんだな。星乃は窓の外を眺めたままだ。俺はその様子を横目で盗み見ながら聞いていた。
すると突然こちらに顔をむけ、
「でも、ドリフトはできないよ。サイドブレーキがフットだからね」
そう言ってけたけた笑った。
嫌いだという助手席で、ネオンのようにキラキラ光を放つのは、幼馴染みの星乃。
俺はその光に吸い込まれそうな、目眩にも似た感覚に襲われた。
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