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お酒
星乃は光を放ったまま、俺に甘ったるく問いかけてきた。
「ねぇ翔吾。今日は飲んじゃっても良いかな」
既定路線のように聞いてきたから俺はぶっきらぼうに、
「まあ、いいんじゃない」そう答えた。
さっきまでは飲むつもりでいた。後輩ちゃんとホテルに泊まる流れも想定……というか期待してたから。だが、その野望は潰えたし、酔ってしまう理由もない。だから俺はさらに言った。
「飲んでいいよ、潰れたって構わない」
一応は俺から誘った形になっているわけだし、星乃を家まで送ることは義務とも言えるだろう。
彼女は嬉しそうにし、そして懐かしむような雰囲気で、
「そう言えば高校生の頃さ、翔吾んちで年末に『ゆく酒くる酒』なんてのやったよね。親公認だから大丈夫なんて言っちゃってさ」
クスクス思い出し笑いをする星乃が続ける。
「高校生のうちからお酒の飲み方覚えておくと、社会に出た時役に立つ。すごい教えだよね。急性アルコール中毒も、あらぬ失敗も回避するための教育ってね」
うちの親父が言い出したことではあるが、教育方針としては立派である。違法かもしれないが、外れた道で無ければ俺はアリだと思う。
「ところで星乃は、その後のこと覚えてるのか?」
「どの後かな」
どの後ってその後だよその後。一体どこまで覚えてるんだ。
昔は両家でよく集まっていたが、俺らが大人になるにつれ、親たちだけで集まるようになった。『ゆく酒くる酒』をやったのは高校2年の年末。集まるたびに『お酒の教育』はあったのだが、高2のこの時が一番飲んだ時だった。
「翔吾の部屋で寝たね、わたし」
星乃がグデングデンに酔ってしまい、とりあえず俺の部屋で寝かすことになり……。
星乃のおじさんは「託した」と俺の肩を掴んだ。
うちの母は「急いでファブリーズしてきた」と言った。
星乃のおばさんは「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。
うちの父は「ゆけ、これが大人の階段だ」と言って背を叩いた。
俺も些か酔っていたが、促されるまま部屋まで星乃を連れていきベッドへと寝かせた。
俺の言うその後とは、ベッドで寝かせた後のことだ。
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