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うすらぼんやり
俺はベッド脇に座り込み、寝顔を覗きこむ。漏れる吐息には酒臭さがにじんでいた。酔った女の色気たるや、高校生の男の子には刺激が強すぎる。
星乃は可愛い女子だ。俺の幼馴染みだ。いつだって触れられる近いところにいたのに、こんなに近いのは初めてだ。
俺は星乃の頬を指で触れてみたくなった。
柔らかい。
トクンと脈の跳ねる感覚が指先から全身へと走った。
そして、離れることを拒む俺の指は、そのまま唇へとゆっくり滑りこむ。
夢うつつな星乃の呼吸が少し荒くなる。合わせて俺の呼吸も早くなる。
俺は人差し指に中指を薬指をと仲間を増やし、五本の指先で星乃の頬から顎元を包み込んだ。
全身で脈打つ俺の鼓動が星乃にまるバレだ。でも止まらぬ右手が星乃から離れない。
「翔吾……いいよ」
起こしてしまった……わけではない。星乃が寝ていないことは、なんとなく分かっていた。互いの呼吸が興奮のそれになっていたから。
「星乃……」
俺は湿りをともなう声で、小さく名前を呼ぶ。星乃の顔を右手で包み込んだまま、唇を重ねた。
ほんの軽く一回。
そして、もう一回はやや強めに。
星乃が目を開き見つめ合う。
そして、キス。
お互い初めての慣れないキス。恥じらいと興奮の中で何度もした。
「星乃……こんなんしたら、俺もう止まんないぞ」
気づくと俺は、強く星乃を抱き締めることで理性を保たせていた。
「翔吾なら、いいよ」
酒も回って普通じゃない中でも、はっきり聞こえた星乃の声。
俺の理性が弾けた。
「星乃っっ!
っおい……星乃?
はっ、ははは」
『好きだとか付き合うだとか無しに結んじまうのか俺達っ』、という背徳感は、星乃の寝息によって侵されずに済んだ。
大いに盛り上がった俺の身体はまだ火照ってはいたが、ホッとした気持ちが可笑しさを呼んだ。しばらく笑い呆けたあと、俺は寝落ちした。
様子を覗き見にきた親達によって、俺は凍えることなく布団にくるまり朝を迎えた。
回想に浸る俺に助手席から星乃が聞いてくる。
「翔吾?
うすらぼんやりよりも鮮明って、
どんな言葉が当てはまるかなぁ」
星乃はどうやら俺と同様、しっかりと記憶にあるようだ。
その遠回しな言い方が、星乃の答え方だもんな。
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