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偶然を必然に
そういえば中学3年のある日、仲間の1人が「星乃と付き合いたい。良いか?」と聞いてきたことがあった。
ここで初めて、俺の存在が星乃のガードになっていたと知ったんだ。星乃の世界を広げる為、俺は距離をとることにしたのだった。
俺は星乃にどんな想いを寄せていたのだろうか。
星乃はどうだったのだろうか。
ふいに電気が迸る。
胸のあたりだ。
喉が詰まるような感覚に、口も渇き出す。
俺は浅い呼吸を繰り返し、助手席の星乃を見やる。
それと同時に星乃もこちらを見るから、運転中というのに瞬間見つめ合うかたちとなった。俺は慌てて前を向きハンドルを握り直す。
胸のあたりが酸欠だ。
全身がピリピリするほど、電気が駆ける。
──俺、星乃が好きだ。
「ねぇ翔吾、ふたつ質問」
ふいの問いかけに戸惑う俺は「なんだよ」と、喉が詰まって変な声になった。星乃はこちらに視線を預けたままだというのが分かる。
「今日のドタキャンがなかったら、その子とどうしてた?」
俺はそのままを答える。
正直に言えば下心はあったこと。
それは男の性としてという言い訳。
彼氏持ちだし、絶対にどうこうするつもりではなかったと伝えた。
「ぷっ、ふふふ。分かった分かった、ごめん。なんとなく聞きたかっただけ。正直にありがと。それじゃ、もうひとつね」
星乃はそう言うと、少し間を置いた。両の手指を遊ばせ、かなり落ち着かない様子だ。
「それと、もうひとつはね。私と今日会わなかったら、いつ会えた?」
今日のことは全て偶然が成せたわけで、俺は受け手だったし、そう聞かれると……いや違う。この時間の中で確かに分かったことがあった。ならば答えはこうだ。
「俺の中でちゃんと気づけた時に、ちゃんと会ってたよ。それがいつとかじゃなくて、それはきっと、いまだ」
もう間もなく目的地へと着く頃に、恋の輪郭が整ってきた気がする。
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