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 家から自転車で十五分ほど離れた県道沿いにファミリーレストラン「Amy's」がある。  この夏休み、塾以外で最も多く通っているのはこのレストランだ。家から一番近く、いつも昼間は空いていて落ち着くことができる。それにこのお店では理帆がバイトで働いている。 「あれ? 郁也(いくや)、また来てたの?」  僕の席にアイスカフェラテを運んでくれたのは、前田理帆(まえだりほ)だった。  理帆は小学校、中学校と同じ学校の同級生だ。いまはお互い違う高校に通っているが、理帆はここでバイトをするようになり、僕はここにしょっちゅう通っているので、今でもこうやって話すことがある。 「また、母さんに『外に行け』って言われたからだよ」 「ああ、郁也ん家はそう言うよね。でも、ここに来て涼んでるんじゃ外出の意味あんまりないよね」  アイスカフェラテを運んできたトレイを左脇に挟み、腕組みをしながら理帆は言った。 「ここに来るまで自転車は漕いできたよ?」 「そんな長距離でもないんじゃ……。小説家だって体力いるんでしょ? たまにはカラダ動かさないと錆びつくよ?」  理帆は笑った。  僕の夢は小説家になること、それは小学生の頃からずっと変わらないものだ。理帆はそんな僕の夢を知っていて、いつも僕が書いた小説を最初に読んでくれる存在だ。 「あ、そういえばね、つい一昨日からなんだけどさ、新しいバイトが入ったんだ」 「ふぅん」 「うわ、興味なさげ」  ファミレスのバイトは入れ替えが激しいと理帆以外からも聞いたことがある。新しいバイトが入ったこと自体、何も驚くところではない。 「でも、そいつを見たら、郁也は驚くよ?」 「え……? オレが知っている奴っていうこと?」 「そう」 「誰?」  僕の問いに理帆は直接答えることはなかった。その代わりのヒントとでも言うように、理帆は左を見た。僕はその視線の先を追った。  遠目にもおぼつかない手つきでトレイの持ち方でホール姿の男が歩いていた。よく日焼けをしたその男から僕は目を離すことができなかった。 「月斗(つきと)、覚えてるよね?」  理帆が名前を告げずとも、僕はその男の名前を忘れるはずがなかった。  飯塚月斗(いいづかつきと)。  それは、僕と理帆の小学校時代からの同級生であり、僕がサッカーを諦めてしまうほどの『天才』と呼ばれた男だった。
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