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 長い夏休みではあるけれど、週に三回ある塾の夏期講習以外は僕の予定は特にない。  この夏の楽しみと言えば、三月に応募した賞の選考結果ぐらいだった。流星新人文学賞という賞で、入賞すれば書籍として出版されることが確約されている。  僕が書いた小説は六月に発表された一次審査を通過しており、来月には二次審査の結果が発表される。その次は最終審査、そこをも通過することができたならば、僕の小説家への道が開かれることになる。  ただ、まだ何の実績もないそこらの高校生に過ぎない僕は、大学進学に向けた塾に通わざるをえない。  夜の八時に塾の講義を終えて、僕は塾の入っているビルを出た。エアコンで冷やされた空気と外の空気の間には壁があり、僕の身体はまだ昼間の余韻を残す熱気に晒された。  来る前はまだ明るかったが、辺りはもう真っ暗になってしまっていた。僕は駐輪場へと移動し、止めてあった自転車に跨った。  かつて通っていた中学校の脇を通りぬけようとしたとき、グラウンドに照明が点いていることに気が付いた。  最近も夜までやる部活があるのだろうか、少しだけ気になり、僕は自転車を止めた。  照明が照らすグラウンドには三角コーンが何本か並んでいた。そして、誰かが立っていた。  いやーー、誰かとかそんな曖昧なものではない。あれは、月斗だ。  ほかに誰もいないグラウンドで月斗はドリブルを始めた。昔と変わらぬボールが足に吸いついているんじゃないかと思えるぐらい軽やかに月斗は三角コーンをジグザグとドリブルで抜けていく。  僕はそんなあいつの姿を僕はフェンス越しに見ていた。  すると、そんな視線に気付いたのか月斗がこちらを見た。僕だということがわかったらしく、軽く手を振りながら、月斗はこちらへ駆け寄ってきた。
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