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近づいてくる月斗を見ながら、僕はその場を離れたい衝動に駆られた。しかし、それは気まずいのでやめておいた。
「よっ。何やってんの?」
月斗が僕に話しかけた。僕は一つ頷く。
「塾の帰りだよ」
「塾? そっかぁ。郁也、昔っから頭が良かったもんなぁ」
「月斗は……なんで、こんなとこでサッカーしてるの?」
「オレ? 川上センセーに頼んでグラウンド借りてるんだ。夜だけ」
もう長い間思い出すこともなかった体育教師の顔を久々に僕は思い出した。
「一人で?」
「そう。いいだろ? グラウンドを独り占めー」
月斗は両手を大きく広げて、笑顔を浮かべた。
たぶん、この笑顔に偽りはなくて、本当にグラウンドを独り占めできていることを喜んでいるんだろう。月斗はそんな奴だ。
「郁也さぁ、時間ある?」
「え?」
「久しぶりだし、ちょっと話そうぜ? こっちに来いよ」
手招きする月斗に、僕は少し間を空けてから頷いた。
夜だと言うのに蝉が鳴いていた。風も吹いていなくて蒸し暑い中、僕は額に汗を感じながら自転車を校門へと押し進めた。
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