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「サッカーの強豪校に入ることが決まってね、もう引っ越しちゃった。寮生活だから荷物も少なかったみたい」
「引っ越したって、いや、いつのまに青森の学校とか……」
「先週、郁也がおばあちゃん家に行ってる間だよ。日帰りでセレクション受けてきて、すぐ合格決まったんだって」
「いや、でも転校とか、そんな簡単にできるのか?」
「みたいよ。転校後、半年は公式戦出れないから、来年春からの大会しか出れないみたいだけど。サッカー続けられるならそれでいいんだって」
理帆の話を聞きながら、月斗がまた子供みたいな笑顔で「それでいいんだ」と言っているような顔が思い浮かんだ。
「オレの理解を超えてる奴だな、アイツは……」
「また『外』に出ていっちゃったね、月斗」
「本当に、な」
「伝言、預かってるんだ。アイツ、スマホを持ってないからって私に言ってきた」
理帆はそう言いながら、少し意地悪そうな笑みを浮かべて、「直接何か言うのも恥ずかしかっただけかもしれなけど」とも言った。
「伝言?」
「『先に夏休み終わる。練習つきあってくれてありがとう。またいつか、どこかで、特別なとこで』だって」
理帆はスマホにメモをしておいたらしく、スマホを見ながら言った。
月斗らしいなと僕は思った。ユースも高校も辞めて、何もないと言っていた月斗は、いつのまにかまた次の道を見つけていた。好きなことを、好きなサッカーを続けるためにどうしたらできるか、自分で見つけ出したのだ。そして、新たな道に繋げた。
僕は、ついさっき新人賞の結果がダメだったときに「月斗もオレも同じ」なんて思ったことを思い出した。そんな自分が本当に情けない奴に思えて、首をブンブンと横に振った。
「まーた自分と月斗を比べてるんでしょう?」
隣で理帆が言った。
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