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「え?」 「カタチもスピードも方向も何もかも違うけどさ、月斗も郁也も目指す方向があって、ちゃんと進んでるんだと思うよ」 「いや、オレは、でも……」 「よく……わからないけど、新人賞っていっぱいあるんでしょ?」  理帆には、僕が流星文学新人賞に応募していることを話していた。  今日、二次選考の結果が発表されることも何度か話した。もしかしたら理帆もその結果を見てくれたのかもしれない。つまり、理帆は、僕が落選したことを知っている。なんとなく、そんな気がした。 「月斗もユースでうまくいかなくて、郁也だって一つぐらいうまくいかなくてもいいと思うよ。もし、私の分の何かとか思って重荷になってるなら気にしなくていいよ」 「重荷なんて思ってないよ。オレはオレでやるだけだし」 「それならよかった」 「また次のを書くだけだよ」 「次のを書いたら、また私が読んであげるよ」 「なんで上から目線なんだ」 「郁也の書いた小説の初版を最初に読むことができる、これって今のとこ、私だけの特権だよね?」  理帆は頷くと歩き始めた。僕も自転車を押しながら理帆に続いた。 「郁也も月斗もどんどん『外』へ広がっていくんだなぁ、って思ってたら私もなにか始めなきゃだよね。『内』に籠らず、『外』に広がるってやつ」 「へぇ……理帆は何か考えてるのか?」  僕が質問すると、理帆は首を傾げて「まだわからないかな」と言った。 「まずは東京の大学受けて、一人暮らしして、かわいい家具を揃えて、ステキなお部屋を作るところからかなー」  理帆は両手を組み合わせてお祈りでもするように両手を組み合わせながら言った。冗談なのか、本気なのかわからなかった。 「それって、ただの都会の女子大生になるって言ってるだけだろ……」 「私は月斗や郁也みたいなしっかりした未来図ないからね。まずは堅実にね。しっかり勉強して、大学生目指すよ。あとは……今度はうまくバランス取るよ」  理帆は笑った。  たぶん、いつもと同じ笑顔で。  でも、それがなんだかかわいく思えたのは、少し涼しくなってきた夏の夜のせいだろうか。  僕はこの笑顔に何かをもらって、いつも次へと進んでいくことができるような気がしている。 「理帆」 「んー?」 「角のコンビニに花火がまだ売ってたらさ、花火やらない?」 「え、なに突然?」 「夏休みも終わるし、パーッとしたくない?」  僕の言葉に一瞬、驚いた顔をした理帆だったがすぐに微笑み、「いいねー。やろう」と言った。  月斗の次の道がうまくいくように、理帆が前向きに生きて行けるように、僕が落選を忘れて切り替えていけるように。パーッと花火でもして景気づけをしておこう。 「なんか今年の夏は、あっという間だね」  グラウンドを見ながら理帆が言った。微笑みを浮かべたままだった。もうここにはいない幼馴染の残像でも見えたりするのだろうか。  月斗がいない日々が始まる。これから夜のグラウンドでサッカーはできなくなるが、これからも日々は続いていく。  月斗は遠くでサッカーをして、理帆は新しい何かを探すのだろう。僕はまたこれからも小説を書き続ける。 「へっくしゅん」  理帆がくしゃみをした。何かおかしくて僕は笑った。 「最近、涼しくなってきたからな。風邪、ひくなよ」 「うん、ありがと」  涼しい風が理帆の髪を揺らしていた。  もうすぐ秋が来る。  夏が終わる。
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