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 夜のグラウンドに足を踏み入れるなんていつ以来だろう。中学を卒業してから一度も踏み入れたことがなかったグラウンドは何だか昔よりも広く見えた。  グラウンドの隅にあるベンチに僕らは座った。 「郁也さー、たまに『Amy's』来てるだろ?」 「うん」 「見かけるんだけどさー、オレもバイト中だし、あんまりサボるわけにもいかないしさ」  と月斗は言ったが、理帆は僕によく話しかけてくる、あれはサボりではないんだろうか。 「なんでバイトなんか……してるんだよ?」  僕が尋ねると、月斗は顔だけこちらに向けて何も答えなかった。また前へと向き直り、汗で額に張り付いた前髪をかき上げた。 「ユースでいろいろあって、うまくいかなくなっちゃってさ、辞めることになったんだよ。それで学校も辞めることになった」  ユースに在籍しているとチームから補助を受けられることも多いと聞いたことがある。おそらくは提携校に特別枠で高校には通っていたのだろう。ユースを辞めたのならば、その提携校に通い続けることはできなかったのだろう。 「で、帰ってきたはいいけど、学校にも行ってないわけだからさ、母さんに『メシ代ぐらい稼いできなさい!』ってことでバイトしてる」 「あー、月斗のお母さんなら言いそうだな」  と言うと「だろ?」と月斗が笑った。  小学生時代、月斗の家に行ったことを思い出した。ゲームの時間が長すぎる、部屋が散らかっている、服が脱ぎっぱなしだといつも月斗は何かにつけて怒られていた。まぁ僕の家も大差あるわけではないが。 「で、いまは昼間はバイトして、夜はこうやってグラウンド借りてる。片付けやグラウンドならして帰らなきゃだけどさ。ま、ほかにすることがあるわけでもないしな」  そう言いながらも月斗は笑顔を浮かべていた。この状況が最悪だとは思っていないようだ。むしろ楽しんでいるのかもしれない。月斗らしいなと僕は思った。  しかし、同時にどこか月斗に失望している僕が胸の中にいた。
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