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*  家に帰り、シャワーを浴びてから僕は自分の部屋に戻った。  部屋の電気も点けずに僕はベッドに仰向けに寝転んだ。だんだんと暗闇に目が慣れていき、天井の模様がはっきりと見え始める。  僕はグラウンドで一人、ドリブルの練習をしていた月斗の姿を思い出していた。正直、あんな月斗の姿を見るとは夢にも思わなかった。  小学校、中学校の間、月斗は輝かしい道を進んでいた。学校の中で月斗を知らない奴なんていなかったし、何なら他校の女子まで月斗のことを知っていた。地元のテレビ局から取材を受け、何かの選抜合宿にも召集され、いくつかのJリーグユースやサッカー強豪校からもスカウトが来ていた。傍目には順風満帆すぎる人生に見えた。  きっといつかはプロサッカー選手に、もしかしたら日本代表になったりするんじゃないか、僕以外でも月斗を知っている奴ならば一度はそんなことを考えたことがあるだろう。  中学の卒業式の後には、いろんな奴等が月斗と写真を撮りたがっていた。月斗が「こいつ誰なんだろう?」と思う奴とも写真を撮ったと言う。  あの頃を知っているだけに、いまの月斗の姿は見ているこっちが辛く思えた。現実は甘くなかったということだろう。  結果論かもしれないけれど、もし月斗がこの町に残っていれば、今頃はどこかのサッカー部のエースとして、今も活躍し続けていたかもしれない。  思えば、中学時代、月斗の影に隠れていた同級生の松島は、いまでは県内のサッカー強豪校で2年生の司令塔として活躍し、この夏のインターハイ予選では県大会ベスト4まで勝ち進んでいた。  小学校でサッカーを辞めた僕に言われたくはないだろうが、月斗は自分の選択が正しかったと思っているだろうか。 「オレなら後悔するな」  そう呟いて、僕は目を閉じた。なんだかひどく眠かった。
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