幽霊は面倒くさい。

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智樹(ともき)、俺、幽霊になったみたいなんだ」 「そうだね」  公理(こうり)智樹は幽霊が見える。  子供の頃からだ。だから大抵の古くからの友人は智樹が見えるタチだということを知っている。  智樹は今、振り返ったことを少しだけ後悔していた。そこは智樹がよく通る路上で騒がしく、名前を呼ばれて知り合いかと思ったら、そいつはぽやぽやと半透明だったから。  幽霊の中には日光で溶ける奴がいるから慌てて木陰に誘導する。真っ昼間なのに幽霊が出るなんて珍しいと思いつつ、だから弱まって半透明になっているんだろうかと思う。  今、智樹の頭には錦玉(きんぎょく)が思い浮かんでいた。寒天に砂糖や水飴を混ぜた半透明の和菓子だ。そんなように涼しげにぽわりと塊が浮いている。 「それでお前、誰」 「わかんない」 「そう。思い出してから声かけて。じゃあね」 「待てよ」 「名前わかんないと話しようないじゃん。思い出したらね」  そう言い放って歩き始めたが、案の定、霊は後を着いてきた。智樹のため息が小さく響く。  智樹と心霊現象の付き合いは長い。  なにせ物心ついたころから周りに普通に霊がいた。最初は人と霊の違いはよくわからなかった。けれどもそのうち、普通の人間は壁をすり抜けたりしないし透明になったり発光したりも、過剰に崩れていたりもしないことを学び、霊の類は基本的にろくなことをしないと学んで以降、霊の類は基本的に無視することにした。  霊にとっても人間に認識されないのが通常で、気づいてないふりをすればお互いスルーしあえる。それにヤバい奴はそれと認識できるから近寄らない。それは生きている人間も同じことだ。わざわざヤバそうな奴と目を合わせたり近寄ったりしない。  その智樹の経験則上、この霊はヤバくはないが面倒臭いタイプだった。話好きそうだ。霊は人に認識されない。つまり話し相手がいない。だからきっと、延々とついてくる。
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