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「松笠栄一と待ち合わせしてた人だよね?」
「はい?」
不審げな顔を上げる女の顔が一瞬で微妙に赤く染まり、智樹は背後からイケメン死ねという呟きを聞いた。
「俺、栄市の友達でさ、急にみんな来れなくなったから連絡してくれって言われてさ」
「な、なんで?」
その表情は予想と違い、鳩が豆鉄砲を喰らったようで、そしてこれぞ不審of不審という形に眉が潜められた。なんだか嫌な予感がした。こういう時は逃げるに限る。
「とりあえず伝えたから。じゃあ」
「ちょ、ちょっと待って、待ってください。どうしてそれを?」
「どうしてって?」
「いや、その」
智樹は女の様子が妙なことに気がついた。
友達と出かけると言う風態ではない。ノーメークに近く、カーキのゴツめのジャケットにカゴパンはまだよいとしても、背中のリュックから50センチほどの柄が飛び出している。所謂『汚れてもいい格好』で『これから野良仕事にでも行く格好』に見えた。
そしてさらに嫌なものが目に入る。体にまとわりつく水子霊。ゴクリと喉が鳴る。しかも1体じゃない。都合十体を超える。某漫画の産子使いのようだ。どうみてもろくでもない。
そして可愛いだろうと呟く栄市に、智樹は無視すればよかったと改めて溜息をついた。
「何? 俺、忙しいんだけど?」
「松笠さんはどうしたんですか」
「どう……? 俺は伝言頼まれただけだし」
「……私を脅すつもりでしょう?」
智樹の頭の中でヤバさアラートが大警鐘を鳴らす。酷い勘違いをしていることを自覚する。
今の話の流れに『脅す』要素などない。けれどもこの女には脅される自覚がある。つまり脅されてしかるべきな行為をしたということだ。
それは栄市の呑気な様子から真っ先に智樹が可能性から外したもの、殺人。智樹の脳裏に栄市がこの女に殺された可能性が浮上する。
「待って、俺は金輪際あんたと会わない」
「あなた雑誌で見たことある」
智樹は美容師でたまにタウン誌にのる。だから割に顔は知れている。そして腹立たしいことに栄市は智樹の頭の中の可能性に全く思い至っていなかった。
「もてもてじゃん、智樹ずるい」
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