記憶の中で

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 萩山淳吾は中庭にいる。少し肌寒い。花壇の花はきれいに咲き誇っていた。合間合間に雑草も生えていて、せめて花壇の中くらいは管理をした方がいいのではないか、と他人事程度に考える。淳吾は一年生のときクラス交代で中庭掃除だったことを思い出す。自分もまたまともに清掃していなかったことを思い出す。掃除の時間は数人ごとでグループ分けされていて、週代わりで分担が変わった。五つだったろうか、教室が二グループでまわるほかはそれぞれに分担先があったはずだ。中庭がクラスの担当になった月は、先生の目の届かない中庭担当が遊び呆ける様が定例化していた。淳吾は遊びの合間にそれでも少しだけ雑草をむしっていた。そう、西宮すみかもそうだった。 「淳吾、淳吾」 中村涼太が駆け寄ってくる。通りすがり様のラリアットをしゃがんでかわす。 「わた、」 バランスを崩した涼太が淳吾の先で転びかけた。 「どうした?」 「聞けよ、淳吾。一大事だ。心の準備ができない」 「え、ああ。咲ちゃん?」 「そうなんだよ。もう、ほんとね。今日が勝負」 「ふうん」 「ふうん、じゃないよ。友だちがいがない」 中村涼太とは一年生のときはじめて出会った。小学校は別だった。出会った頃から人当たりのいいムードメーカーのようなやつだった。中村涼太と小倉咲とは部活を介した知り合いだったはずだ。正直、淳吾は女子テニス部の小倉咲をほとんど知らない。剣道部の使う武道館前にテニス部の第三コートがあるが、女子テニス部は人数も少ない上に、第三コート自体があまり使われないため、遠目でもそれほどみたことがない。テニス部のコートは武道館から離れた配置に二コートあり、基本そちらが男子テニス部と女子テニス部の練習場所だった。 「結果は今度聞いてくれよ」 「わかった、わかった」 淳吾は涼太をあしらうと西側の通路へ戻った。 「淳吾くん」 そこには西宮すみかがいた。西宮すみかは目元に疲れがたまって見えた。 「なんだかよく会うね」 「そうだね、それで、あのあと」 「うん、やっぱり私諦められなくて」 そう言う西宮すみかにはまだかつて淳吾が他にない西宮すみかだけの特徴として捉えた根の強さが感じられた。 「応援してる。それにもし」 淳吾の言葉を西宮すみかが手で遮る。 「ううん、今頼ったら泣きたくなっちゃうから」 西宮すみかからは本来の強さと危うさを合わせたような、とても放っておけない、そう感じられた。
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