記憶の中で

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 萩山淳吾はグラウンドと校舎の間の水道にいた。運動着に構わず流した汗の不快感から逃れるために水を顔に強くかける。全身に汗の不快感はあるが顔と首もとを洗うだけでも多少楽になった。濡れた顔をぬぐう。タオルは教室にある。制汗剤を使うクラスメイトも多いが、体育の授業後にクラス内に立ち込める、充満するあの独特の匂いは好きになれない。淳吾は今のところ使う気にはなれなかった。校舎西側の玄関へ向かう。西側の通路一階には下駄箱が配置されている。全学年が同じ配置のため、学年が進むごとに使うスペースが横にスライドしていく。靴の履き替えを済ませると、通路を歩く中村涼太と目があった。 「淳吾、次移動クラスだぞ」 「ああ、ありがとう」 「そうだ、淳吾」 涼太はそこまで言うとあたりを伺った。淳吾もつられて周囲を確認する。 「あのさ、バレちゃった」 「え、ああ。咲ちゃん?」 「そうそう、お前じゃないよな?」 「いや違う」 淳吾は涼太の日頃の振る舞いを思い返す。とてもではないが隠し事ができるようには思えない。 「そっか、そうだよな。いやまじでばらしたやつ許さない」 「そう、頑張って探して」 「なあ、なんかわかったら教えてくれよ」 「それはいいけど、するべきことは他にあるんじゃないのか」 「え、」 淳吾は涼太に意味を込めて視線を送る。 「わ、わかってるよ。んじゃあとで、遅れんなよ」 涼太は教科書、ノート、筆箱を片手に走り去っていった。ふと視界に入った中庭窓越しに近づいて見ると、花壇には新しい花が芽吹きはじめていた。 「淳吾くん」 西宮すみかが立っていた。なんだか不安げにみえた。少しもじもじしていて西宮すみからしくない。 「淳吾くんなら、淳吾くんだから相談したいことがあるんだけど、今日時間ある?」 思わず西宮すみかをまじまじとみてしまい、淳吾は自分で気づいて頭を横に振った。 「ダメ?」 「いや、そんなことない」 「そう、」 西宮すみかの表情に普段にない陰りが見えた。 「今日の放課後で良ければ、、部活大丈夫?」 「え、うん!大丈夫。淳吾くんこそいいの?」 「別に俺はレギュラーでもないから、」 「わかった、ありがとう!あとでね」 そう言って去っていく西宮すみかの姿には普段と変わらない快活さが戻っていた。授業の予鈴が聞こえた。
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