記憶の中で

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 萩山淳吾は布団からのっそりと起きた。長い夢を見ていた気がする。そう、あれは中学校のころの。西宮すみか、懐かしい。懐かしくて悲しい。目元が濡れていることに気づいた。西宮すみかは中学の頃両親が離婚して、母親に連れられる形で転校していった。淳吾は西宮すみかからそのことについてよく相談を受けていた。彼女の表情が徐々に暗くなっていくことに淳吾だけは気づいていた。明るくて気さくだった彼女は、最後までクラスのみんなに明るく振る舞っていた。  淳吾は西宮すみかの連絡先を知らない。中学を卒業して高校に入学、それから大学、就職と人生の歩みを進めていくうちに淳吾の中での存在も少しずつ消えていっていた。先月中村涼太の結婚式に出席したとき、当時のクラスメイトから彼女の名前がでた。西宮すみかは式に出席していなかった。彼女と連絡をとっていたクラスメイトによれば彼女を引き取った母親も西宮すみかが大学に進学したころに他界してしまっていたという。その後彼女は母方の実家へ引き取られたらしい。 「淳吾」 中村涼太は淳吾の脇腹に肘をあてる。 「しばらくだな」 「お前は身長伸びたな」 「いつと比較してるんだよ」 「お前は西宮さんとどうなんだ」 「いつの話してるんだよ」 「いや、俺の立場からしたらそう過去として切れる話でもない」 涼太は隣の席へ視線を送る。 「今回西宮さんにも出欠確認送ってるんだ」 「これなかったらしいな」 「残念だったな」 「いや、もう忘れていたよ」 「ふうん」 「なんだよ」 「あのさ、引き出物あるんだ」 「そりゃあるだろうな」 「そう、届けてくれない?」 「誰に?」 「西宮さんに」 「普通出席者にしか渡さないだろう」 「普通はな」 「…」 涼太に押しきられる形で淳吾は西宮すみか宛の贈り物と彼女の今の住所を聞いた。郵送しようとも思った。今からどうやって話せばいいかわからなかった。けれど、淳吾の部屋の玄関には結婚式からそのまま包みが残されていた。 「まずは電話かけないとな」 淳吾は布団から立ち上がった。
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