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侵入者は、尚希たちで間違いなかったが、決断力と判断力が早かった。
尚希たちは、尚人だけ残してすでに宮殿を後にしていた。出入口が封鎖される少し前に、見切りをつけて宮殿を出ていたのだ。
離れが怪しいと睨んでいたので、尚人をそこへ導くために皆で警備の気を引いたり、抜け道を探したりしていたせいで、怪しまれてしまったのだ。
囮は浅見と火月が引き受けてくれた。運動神経が抜群にいい火月と、頭の回転が速い浅見が宮殿内に残った。そのため、他の者は無事外へと逃げられていた。
その後、浅見と連携して逃げ道を探り当てた火月と浅見も、高い塀を乗り越えて無事脱出に成功していた。
何とか離れへの抜け道は準備できたが、侵入できたのは尚人ただ一人。無事でいて欲しいと願いながら、尚希たちは宮殿より少し離れた場所で待機していた。
夜の闇が静かに覆う。
誰もが声を出さない状況で、突然尚希の携帯が鳴り響き、罰が悪そうに尚希が席を外す。
「ちょっと、急用」
そう言いながら、尚希は声が聞こえないほど遠くに走る。
この緊張感が嫌だ。誰しも宮殿内に残してきてしまった尚人の安否を心配し、不安に押しつぶされる。けれど、あのまま捕まれば、自分たちは処刑されていたかもしれない、そう考えると、背筋が凍り、身震いが止まらない。
だからこそ、尚人が心配で心配で、皆口を閉じている。
どうか無事でいてくださいと、水月は夜空に瞬く星に願いを込めた。
「宮殿に戻るよ」
通話を終えた尚希は、戻ってくるなり宮殿に戻ると言い出した。全員の目が信じられないほど大きく見開く。尚希は一体何を言っているんだと。
「尚希、何を言い出すんだ」
せっかくここまで逃げてこれたのに、敵地に戻るなどありえないと尚政が噛みついたが、尚希は小さく舌を出すと、携帯電話を左右に振って見せた。
「本当は内密に解決したかったんだけど、甘えちゃった」
大ごとにするつもりはなかったのだが、やはり王子相手ではそうも言っていられないと、尚希は早々に手を打っていたと白状した。
甘えたのはお爺様。
状況説明をきちんと伝え、お爺様に裏から手を回してもらったのだと。つまり、国王に直接話を通してもらったと話す。
作戦が成功すれば、アデルのお咎めはなし。しかし失敗すれば、ここより一番近い場所にいる第2王子のアデルの兄さんが救出に向かう手筈になっていたと説明した。
「ということは、失敗したということでいいんだな」
眼鏡を正しながら浅見が尚希に尋ねれば、「そういうこと」と、可愛く返事を返す。
「ってことは、その第2王子さんが来てくれるのか?」
「そういうことだよ、火月君」
「それって、陸くんも天王寺さんも助けてくれるってことですか?」
「正解。王子は今、宮殿に向かっているって報告があったんだ」
だから、僕たちも宮殿に戻るんだと、尚希が笑顔を見せた。
本当はもうすぐ20歳の儀式を迎えるアデルに、罪なんか与えたくなかったと、尚希は少しだけ目を伏せた。大人しく姫木を渡してくれれば、それでよかったのにと、ちょっとだけ唇を噛む。
「なあ、なんで初めからそうしなかったんだよ」
頬を膨らませた火月は、尚希を睨む。初めからそうしていれば、こんな危険な目に合わなくても姫木を取り戻せたんじゃないかと責めた。
だが、尚希は顔を引き締めて硬い表情を見せる。
「罪を犯せば、罰せられる。この国は特に犯罪に対して厳しいんだ。例えそれが身内でもね」
「どういう意味なんだ、尚希」
「アデルには、きっと重い罪が課せられるってことだよ」
数年間、宮殿に閉じ込められるか、本殿で従者のように働かされるか、それとも国外追放されるか、どんな罪にしても、その罪を課せたくなくて尚希は内密に行動したかったんだと説明した。姫木を無事に取り戻せれば、何もなかったと言えた。けど作戦は失敗した。
結果、お爺様に頼り、国王の耳に入り、アデルは捕らえられる。そうなってしまったことに、尚希は心を痛めたが、大切なものを守りたいと願う方が大きい。
二人が無事に戻ってきてくれるのを願うしかなかったと、声を詰まらせた。
それを聞き、その場にいた全員が重たく口を閉じた。
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