Day 1 : 1

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 駅から先輩たちが住む家までは、恵美さんが運転する車で15分ほどだった。  その間、僕はまだ新車らしい小型車の後部座席で、ルームミラーに映る恵美さんに時折ちらちらと視線を走らせながら、オノレの想像力の絶望的な貧困を痛感していた。 「俺も今、教習所に通ってるから、今度イチが来た時は俺の運転やぞ」  先輩が助手席から半分だけ振り向いて言う。 「命、預けます」 「イチローくんって、あれやね、なんか、ぼそっと、おもろいこと言うね」 「そんなつもりは、ないです」 「あー、怒らんといてえ」と笑う恵美さんと、ミラーのなかで目が合った。  僕が勝手に思い描いていた『東俊哉が本当に好きになった女性』は、典型的な楚々とした『深窓のご令嬢』だった。長いストレートの黒髪の束を2本の指で挟んでうしろに流し、上目遣いに先輩を見遣って「俊哉さん」と小声で呼びかける。聞こえなかったふりで一度めは無視する先輩。二度めのちょっと()ねた「俊哉さあん」で、「ん?」なんて返事をしながら切長の目の端に彼女をとらえる、とかいう場面を想像してはニヤついていた自分が恥ずかしい。穴がなくても自分で掘って、この身を埋めてしまいたい。  ちょっと考えれば、いや、考えなくともわかったことだ。何をしでかすかわからないこの男の相手が、そんなヤワな女性に務まるわけがない。しかし、これほどまでに僕の頭のなかのイメージと極端に食い違うとは、僕の東俊哉に対する理解はまだまだ浅いと、歯噛みする思いだった。  実際の恵美さんが魅力的ではないなんて言っていない。小麦色の肌にショートカットがよく似合う、表情豊かな、ジーンズとモコモコのジャンパーを颯爽と着こなす、身長は平均より少し高めの、スタイル抜群のすてきな女性だ。だけど、なんだかちょっと裏切られたような気分になるのはなぜだろう。
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