Day 1 : 2

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Day 1 : 2

「最後はこの部屋でーす」  さすがに水回りは洋風に改築されているものの、寒くて冷たくて、歩くたびにぎしぎしいう廊下を右へ左へと引きまわされ、僕がこれから二日間使う客間の前を再び通りすぎて直角に曲がった先で、最後、とたどり着いたのは、真鍮の取っ手がついた重そうな木製ドアの前だった。  どうやら洋間らしい。表玄関から50メートル走をスタートさせたとすればゴール地点に位置するその部屋は、あとから増築したもののように見えた。ここだけ垣根の近くまでせり出しているし、階段一段の半分くらいの段差で高くなっている。  先輩に招き入れられて、また口が開いた。  映画かテレビドラマで観たことがあると思った。部屋にあるすべてのものがモダンで重厚。軽薄さが微塵も感じられない。タイムスリップしたかのような感覚が僕を包む。  そして、ドアを入ってまっさきに目に入る、正面に据えられたアップライトピアノ。  黒に見えたが、先輩が点けた照明で真っ黒ではないことがわかった。  天井にある真鍮の腕が、花びらのように放射線状に弧を描き、その先にある五つの白熱灯が柔らかなオレンジ色の光を放つなか、ピアノ全体に深い赤のマーブル模様が浮かびあがった。模様は規則的なものではなく、大理石を連想させる『うねり』がランダムに流れている。 「赤……?」 「ああ。こういうの、あったんだな。よく見ないとわからないけど、ちょっとしゃれてるだろ。じいちゃんが選んだらしい」 「お祖父さん」と言いつつ、部屋をぐるりと見まわして、なんだか胸をぎゅっとつかまれたような気がした。  なんだろう、この感覚。初めて来た場所なのに、懐かしいと言いそうになる。子どもの頃に似たような部屋を見たことがあるのかと考えてみたが、僕にはこんな豪華な洋間を備えた家に住んでいる友だちはいなかった。あえて挙げるとすれば、ひとりだけ。だが『あっちゃんち』の『ピアノの部屋』でも、これほど広くはなかった。
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