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大阪駅から新大阪へ在来線でひと駅。新幹線で岡山へ。そこからディーゼルの『特急やくも』に乗り換えて3時間弱。これ以上この椅子に座っていたら尾骨が砕ける、と不安になりつつ、アパートから約5時間かけてようやく到着した山陰本線の松江駅に降り立った本日の午後2時前、僕の口はぽかんと開いたように思う。
え、ここ? 曲がりなりにも県庁所在地でしょ。
でもすぐに考え直した。僕の知っている県庁所在地といえば、東京と大阪を除けば、神戸、京都、奈良くらい。小学生の頃、家族旅行で鳥取砂丘と皆生温泉を訪れたことはあるけれど、あれは我が家が初めて購入した自家用車での初の遠出だった。
僕は世間知らずの弱冠21歳だ、と唇を結び、同じ列車から降りた20人弱の乗客と一緒に吹きさらしのプラットホームを、探す必要もない改札口へと向かった。
平日の昼間だし、まだ春休みに入っていないし、そもそも大阪駅と比べるほうが間違っているんだし、と、僕はなんとなく松江駅に申しわけない気分になりながら、大阪より3度は低いだろう、春まだ遠い空気のなか、伏し目がちに歩を進めた。
駅員がひとりで切符を集めている改札を抜ける前から、駅舎中央にいる東俊哉と、その横に立つ女性の姿は目に入っていた。
長身だから、どこにいても目立つ。でもそれだけではない。黒とグレーばかりのうらぶれた田舎駅の背景に、そこだけファッション雑誌から切り抜いて貼りつけたみたいな先輩が立っている。笑いそうなくらいアンバランスだった。
本当に笑っていたのは先輩だった。
「おおー、疲れたやろお。びっくりしたやろお、あんまり田舎で」
大きな声で言うので、僕のほうが周囲に気を遣ってしまった。
「長いですよ、『やくも』。お尻が割れそうでした」
こちらは小さな声でもごもご応える。
「アホか、お尻は最初っからふたつに割れとるわ」
先輩の横で、きゃははは、という笑いが弾けた。「大西恵美さん」
照れのかけらもなく、大きな手で恵美さんの肩を、がっし、とつかんで紹介する。
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