手のひらの…

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車は10分ほど市内を走るとビルの地下駐車場に停車した。 「以上でよろしいでしょうか。」 運転手が、車から降りてにっこり笑う。 「ありがとうございます。料金は振り込みでいいんですよね。」 「はい、レンタルパパ10日と本日の運転手である私のギャラと棺桶、祭壇、霊柩車のレンタル代金で見積書のとおり、追加はありませんので指定口座にお振込みをお願いします。」 「カード払いでもいいですか。」 「大丈夫です。では、こちらのリーダーに差し込んで暗証番号をお願いします。」 運転手役の男性と確認をしていると棺桶から父親役の男性が出てきた。 「高田、棺桶って狭いな。このパターンは次から割増料金欲しいかも。」 運転手役の男性に父親役の男性が話しかけるのを見て、私は頭を下げた。 「ありがとうございました。」 「まぁ、なかなか経験できないから、面白かったです。」 そう言って笑う男性は、変装用のかつらとメイクを落としていくとさっきまでのしょぼくれた父親とはすっかり別人のイケオジになっている。 「失踪していた父親が、やっと帰って来たと思ったら最期に娘に会いに来たのだったっていうご要望には応えられましたでしょうか。」 「はい、満足です。」 「普通は、こんな父親が良かったって言うパパと過ごしたいと思うのに珍しいですね。まあ、ご事情があるのでしょうけれど。」 「おかげでこれから自由になれるんです。」 ふたりを見送ると適当に時間を潰してからアパートに戻る。 あとはこのアパートの住民に父を埋葬するから、そのまま実家に戻ると挨拶して引っ越すだけ。 これでうるさい実家の捜索隊の目を掻い潜って、新天地で生活が始められそうだ。
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